ごみ収集現場でクラスター「清掃崩壊」直結の理由 「集中改革プラン」の清掃職員削減が招いた悲劇

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この3区の中には、今回のコロナ対策として既存の区の施設を利用して清掃拠点を分散させたところもあるが、それができない区では、清掃事務所内の待機スペースを分散させる、15時以降は在宅勤務として帰宅させる、洗身の際には湯船にお湯を張らない、といった対応により、クラスターの発生を少しでも減らす工夫を行っていた。

一方で、複数の清掃事務所を持つ区では、さらに万全の体制をとる動きが見られ、とりわけ品川区では、区内に4カ所ある拠点ごとに偏っていた人員を再配置し、人数の均衡化を図り、クラスターが発生してもほかの清掃事務所でカバーできる体制づくりを行っていた。

ごみ収集の委託先でクラスターが発生したら…

清掃事業の委託先となる雇上会社でのクラスターの発生も、23区の清掃行政に多大な影響を及ぼす。とりわけ清掃車については、区が所有する直営車は2割程度であり、収集作業は雇上会社の車両と運転手の借り上げにより行われている。

雇上会社には会社規模が相違する大小51社が存在するが、その中の大きな会社では、1日に約70台もの清掃車を10を超える区へと配車している。

仮にそのような大規模な雇上会社でクラスターが発生して閉鎖してしまうと、清掃車が区には配車されず、たちまち収集サービスが提供されない事態に陥る。また、その車両に区の清掃職員が乗り込み密な状態で移動していくため濃厚接触者となり、その職員が出入りする清掃事務所でもクラスターが発生する可能性も高くなる。

さらに車付雇上(作業員も含めて清掃車の配車を受けること)となってしまった現場では仕事そのものを手放すため、区の清掃職員でさえも現場を掌握できず、委託した業務をすぐに代行することは難しい状態となっている。よってこの車付雇上が欠けてしまうと、通常の収集サービスを安定的に提供できなくなる可能性が高い。

雇上会社の危機管理体制はさまざまであり、新型コロナウイルスが蔓延し始めた頃は、会社を挙げてしっかりとした感染対策を行っていた会社もあれば、マスクや消毒液が十分に支給されず、感染対策を実質的に従業員任せとしていた会社も存在した。

さらに雇上会社の人員は、正社員の比率は極めて低く、労働者供給事業により派遣された労働者の割合が高く、いわば日雇い労働により生計を立てている状態であり、その労働者の中には夜のアルバイトも掛け持ちしている者も存在した。

派遣元の労働組合は派遣する要員に注意喚起の通知を出しているものの、雇上会社としては自社の社員ではないため、要員を十分に管理できない状態にあった。

実際に、複数の区に対し配車を行っている雇上会社からコロナ感染者が出ていた。いち早く自宅待機などの対応をとったため、幸いにも当該会社でクラスターは発生しなかった。しかし、万一そうなっていれば、23区内の清掃サービスの提供に甚大な影響が及んでいたであろう。

コロナウイルスが蔓延する中で、広く社会全体で清掃行政継続への危惧が抱かれるようになった。それは冗長的な体制がとられていない状況、つまりバックアップ体制の未整備に起因する危惧であるといえる。

何故そのような脆弱な体制で行われるようになったかを検討すると、その原因にはこれまで行われてきた地方行革がある。

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