非正規雇用が「日本の生産性」低迷させる根本理由 「最低賃金の引き上げ」なくして経済の復活なし

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つまり労働市場の規制緩和は、経営者の動機次第でよい影響も悪い影響ももたらすのです。非正規雇用を経営の安定のためだけ、ある意味で労働力の緩衝材として使うと、雇用が不安定になり、研修などの人材投資が減少し、さらに設備投資が減ることも確認されています。なぜなら、労働者を安く調達することができると、設備投資をする動機が薄れるからです。

また、労働参加率が上がれば上がるほど、スキルのレベルが低い労働者が増え、全体の労働生産性向上を抑制する効果が現れます。

要するに、経営者が労働市場の規制緩和を好機として人件費削減に走ると、労働生産性に悪影響が出るのです。

以前も説明したように、国の「生産性」は付加価値総額を国民の数で割ったものです。例えば、国民の半分が就労しているのであれば、付加価値を労働者数で割った「労働生産性」は国全体の生産性の倍になります。労働生産性が1000万円で、労働参加率が50%ならば、生産性は500万円となります。つまり、労働参加率を高めるか、労働生産性を高めるかによって、全体の生産性は引き上げられるのです。

非正規雇用の悪影響は「最低賃金」で相殺すべきだ

労働市場の規制緩和がもたらす「労働参加率の上昇」と「労働生産性の低下」という2つの相反する要素のバランスをうまくとる政策としては、実は最低賃金政策が有効です。

ここでは、労働市場の規制緩和が労働生産性にどう影響するかを分析している「The impact of labor market deregulation on productivity: a panel data analysis of 19 OECD countries(1960-2004)」という論文を見ていきましょう。

この論文の結論は、以下のとおりです。

・労働市場の規制緩和を進めると、企業は設備投資をするインセンティブが後退して、労働生産性の低い仕事が増える。
・既存の労働者の労働生産性も低下する。
・労働生産性の最も高い層の労働生産性は、さらに向上する。
・その結果、労働市場の規制緩和は格差を拡大させる

この論文で最も重要なのは、労働生産性と実質賃金の「因果関係」です。実は、「労働生産性が上がらなければ、実質賃金が上がらない」のではなく、「実質賃金が上がらないと、労働生産性が上がらなくなる」と結論づけているのです。19カ国の長期間のデータを分析した結果、実質賃金の成長率が1ポイント上昇するごとに、労働生産性が0.31~0.39%ポイント上がるとされています。

「実質賃金が上がらないと、労働生産性が上がらなくなる」理由は、経営者のインセンティブにあります。賃金が上がった以上、生産性を高めないと利益が減ります。利益が減るという事態に直面しないと、経営者は「生産性向上」に真剣に取り組まない可能性が高いと示唆されています。

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