非正規雇用が「日本の生産性」低迷させる根本理由 「最低賃金の引き上げ」なくして経済の復活なし

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特に、日本商工会議所が展開している「雇用か賃上げか」と言う二者択一は根拠のない、経済学的に見て幼稚な議論で、建設的ではないうえ、信用ができません。1日でも早く、経済学者、産業政策や経済政策のプロ、統計学者を中心とした省庁を横断する専門委員会の設立が望まれます。

多くの先進国において、最低賃金は「経済政策」と考えられています。特に1990年代以降はイギリス、ドイツ、香港、スイスなどが最低賃金制度を導入して、次第に引き上げています。それは、格差の拡大、モノプソニーの強化による労働分配率の低下などの問題に対応するためです。これも、最低賃金を未だに「社会保障政策」と捉えている日本とは対照的です。

非正規雇用と最低賃金は必ず「セット」で考えるべき

さて今回は、非正規雇用と最低賃金の関係を取り上げます。

2021年の1~3月期、日本の非正規雇用者の比率は対前年比1.3%下がって、36.7%になりました。正規雇用が38万人増えた一方、非正規雇用が98万人も減らされたからです。減らされた非正規雇用98万人のうち、75万人は女性です(いずれも総務省データより)。

このように直近では若干減少した非正規雇用ですが、歴史的に見ると1990年代半ばの労働市場の規制緩和以降、上昇傾向が続いています。これは日本だけでなく、1980年代以降、労働市場の規制緩和は世界的に進められてきました。

日本では、非正規雇用が増加したことをネガティブにとらえる風潮が強いように感じます。非正規雇用が増えたことで、給料が上がらなくなり、その結果、日本経済がおかしくなったとみる傾向が強いようです。日本について検証すると、それは事実です。

ただ、海外の分析によると、労働市場の規制緩和には、いい面もあれば悪い面もあるとされています。

いい面としては、労働参加率が高くなって、失業率が下がる効果が確認されています。それは例えば「フルタイムは難しいが、短時間なら働きたい」という人の選択肢が増えるからです。結果、「生産性」の向上に貢献します。

理論的には、非正規雇用の増加が「労働生産性」の向上に貢献する場合もあります。非正規雇用を「労使のマッチング期間」として利用することで、双方のミスマッチを減らす効果です。成長している業種や企業の労働力調達能力が高まることで、労働市場における資源配分の効率が上がるとされています。結果として、実質賃金が上がります。

さらに、実質賃金が増えることによって、個人消費が潤沢になり、資本深化を促進する効果も確認されており、イノベーションが進みやすくなるとも言われています。

一方、労働市場の規制緩和によって質の低い仕事が増えたり、設備投資の減少につながったりする場合もあります。その影響は「労働生産性」の向上にマイナスに働きます。

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