ピアニカ、30年ぶりモデルチェンジのワケ 現場調査で浮かび上がった、意外な盲点

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見た目にはあまり変化が感じられないが、随所に細かな改善が

 小学校の音楽の授業でおなじみの「鍵盤ハーモニカ」。ハーモニカのように金属製のリードを息で震わせることで音を出す楽器だ。主に、小学校での音楽授業に使用される、この鍵盤ハーモニカの代名詞ともいえるのがヤマハの「ピアニカ」だ。ほかにもスズキの「メロディオン」などの競合があるが、シェアは45~50%で、ここ10年以上変わらずトップを独走している。

ヤマハは、このピアニカを、実に30年ぶりにモデルチェンジした。

何を変えたのか?

モデルチェンジの背景にあったのは少子化だ。シェアで不動のトップを走っているとはいえ、少子化のあおりで販売数量自体は漸減。ここでシェアをさらに拡大するため、攻勢に打って出る。

とはいえ、30年も市場で受け入れられていた製品だけに「保護者などにヒヤリングしても、音質や耐久性など、変えないでほしいという要望も多かった」(ヤマハ広報)。

そこで潜在的な製品の改善点を洗い出すため、ヤマハは首都圏の小学校5校でピアニカの実験授業を実施。現場での使われ方を、製品開発担当者自らが徹底的に観察した。さらに、かねてヤマハが行ってきた音楽指導者の養成講座でも約800人にアンケートを取った。

そこで浮かび上がってきた改善点の一つが、衛生面の問題。実験授業では、子どもが先生の話を聞いて待機している時、ホースが下に垂れて、先に付いている吹き口が机や床に付いてしまっている光景が散見されたという。そこで、モデルチェンジ版では待機時に吹き口を留めておくクリップを新設した。

他にも楽器全体に丸みを出す、ケースを持ちやすくするなど、子どもの手にフィットする形を改めて検討し、モデルチェンジ版に反映させている。

圧倒的なシェアを保ち、学習指導要領で必要とされ続けているため、この市場は安定的な市場だ。しかし、少子化の影響による全体市場の減少は続く。今回のモデルチェンジは、そうした中でシェアを引き上げていく起爆剤になるだろうか。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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