「3850円寿司食べ放題」実施した社長が見た光明 TikTokを通じて広まり、魚介の仕入れ量は3倍に

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「俺の魚を〜」はもともと平均単価は4000〜4500円の中価格帯の店で、客層は30〜40代のビジネスパーソンだったが、食べ放題に関しては日中に営業時間を広げたことと相まって、大学生などの若者の利用が増えた。そのほか、主婦のランチ会に使われるようにもなったという。

前原氏は「家族のリモートワークで主婦の方にもストレスがたまっているため、発散の場となっているのでは」と見ている。

大きな課題となったのが「予約方法」

なお、オペレーション面で大きな課題となったのが予約方法だ。平時は予約サイトを通じて受け付けているが、1人ごとに数百円の手数料をとられてしまうため、利益度外視の食べ放題企画ではとても割に合わない。企画の実施期間は予約サイトの使用をやめ、店ごとに直接電話で受け付けていた。しかし問い合わせの多さから電話対応だけで手いっぱいになってしまったため、最終的には自社の予約サイトに誘導することで切り抜けた。

このように、自社やパートナー事業者の生き残りという切実な目的から始めた取り組みではあったが、結果的に、スタッフの能力ややり甲斐のアップ、店のオペレーションの改善、客層の裾野拡大など、事業全体の品質向上に結びついたことになる。

蔓延防止や緊急事態など、飲食業界にとって厳しい状況が続くが、同社ではできる限り、食べ放題の企画を継続していきたいという。

「俺の魚を食ってみろ!!」は西新宿、神田に店舗がある。もとは仲卸業者が経営母体だったことから、海鮮を得意とする。写真は西新宿店(筆者撮影)

「人にとって食事という営みは、お腹が満たされればいいというものではないですよね。その場の雰囲気やコミュニケーションなどがあるから、心を満たしてくれます。飲食店は心のインフラのような存在です。ですので、要請されたルールの中でできることをやっていきたいと思います」(前原氏)

心配されるのは、お金はともかく、こうした前向きな気持ちがどこまで続くか、ということだ。今回の4都府県で発令された3度目の緊急事態宣言は、アルコール提供店の休業要請という厳しい措置となった。逆境の中でも工夫を凝らし、精いっぱいの取り組みを行っている飲食店。心が折れる寸前の、ギリギリの状態が続いている。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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