アメリカが台湾の最大野党に報復した理由 「中国」の看板を外さない国民党に覚悟を迫る

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一見、蜜月期に入ったように感じる米台関係だが、実は懸案があった。成長促進剤「ラクトパミン」を飼料に用いた豚肉のアメリカからの輸入が2021年1月1日から解禁されたが、国民党は2021年8月28日に実施予定の住民投票に輸入解禁の是非を問うべく、反対運動を展開している。2020年の立法院(国会)では、わざわざ議場で豚の内臓をばら撒くなどのパフォーマンスを行い、良くも悪くも世間の注目を集めた。

この問題の複雑なところは、単に生産業者の反対で終わらず、消費者である国民にとっても関心が高いという点だ。台湾では2014年に日本企業も出資していた現地の会社が、廃油を原料にした違法な食用ラードを製造販売し、広く流通してしまった事件が発生した。

食の安全性に関わる問題はこれまでもしばしば発生し、今日の台湾では政権を揺るがすほどの国民的関心事だ。また豚肉は庶民にとって身近な食材でもあるため、「食べなければいい」では済まされない。今回の豚肉輸入問題はアメリカとの通商、外交問題であると同時に、国内問題でもあるのだ。

アメリカ産豚肉輸入解禁で摩擦が生じていた

そして、この問題に関して、国民党とアメリカにしこりを生じさせた。与党・民主進歩党(民進党)が国内での豚肉の安全性や流通の透明性への理解促進に努めていたと同時に、アメリカも友好交流を中心に台湾世論に対していつもより配慮した行動を見せていた。AITのクリステンセン代表は、アメリカ・ユタ州のブリガムヤング大学で中国文学部の学士号を取得し、高雄医学院(現高雄医学大学)で歯科医の医学実習の経験がある。持ち前の中国語力を存分に発揮して、両国の友好関係維持に力を尽くしていた。

しかし2020年12月になり、アメリカ大統領選で共和党のトランプ前大統領の敗北が決定的になると見るや、国民党はメディアなどで民進党の過度な共和党依存や期待について、批判のボルテージをさらに高めた。国民党はバイデン政権の親中回帰を見込みつつ、政権の外交的失敗を期待して民進党を批判。これにより国民の支持を得て、将来的な政権奪還を考えていたのかもしれない。この国民党が意図した批判の流れは、クリステンセン代表の各自治体との交流活動にも及んだ。

2020年12月16日、非公開とされたクリステンセン代表と国民党籍で台中市長である盧秀燕氏との会談が、突然マスコミを入れた公開となり、盧市長はクリステンセン代表の前で「ラクトパミン豚はいらない」と主張したのだった。メンツをつぶされたAITは翌17日、「政治家が事実に基づかない発言するのは両国の交流には無益だ」として非難声明を発表した。このような発表は異例中の異例だった。

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