有名外資企業がLGBTパレードに協賛する理由 ビジネスにも必須な同性愛の基礎知識

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たとえば「家族に問題が……」とか「実は僕、在日で……」という「カミングアウト」に対して「そんなの関係ない」という「善意」の言葉は、発言者の意図とは異なり、実は相手と本当に向きあうことを避けているように聞こえてしまいます。この感覚をわかってほしいのです。

その上で、求められているのは、「わかった、家族の問題は一緒に解決していこう」とか、「在日のことを詳しく知ってるわけじゃないけど、これから一生懸命勉強するから」といった、歩み寄る姿勢です。「そんなの関係ないから気にしなくて大丈夫」という言葉ではなく、最低限「よく知らなかったけど、これから努力するから一緒に勉強させてね」と寄り添い、同じ地平に立って悩み、考えることが求められているのです。

これは、世界中のすべてのマイノリティ問題に共通することです。少数者のアイデンティティになっている何ものかについて、多数者の側が発する「そんなの関係ないから」という言葉は、理解を示すように見えて、結果として同化を要求してしまうような「暴力的な」言葉なのです。

同性愛への理解は、ビジネスにもプラス

ビジネスに直結する話をしましょう。欧米の企業は、優秀な人材を採るためには属性はいっさい問わないという方針から、同性愛者の採用も積極的に行っており、実は日本のLGBTパレード(東京レインボープライド)の協賛企業にも、非常に有名な欧米の大手企業が多数、名を連ねています。これは上手な広告戦略だと思いました。

パンフレットに小さなロゴが入るだけですから、大した金額ではないでしょう。でも、受け取る側から見れば、「この会社に入れば、同性愛者であることで差別を受けることはないのだな」と感じます。見事なピンポイントのマーケティングなのです。

ある年のパレードで、日本の有名な企業ではなぜか「餃子の王将」だけが入っており、ゼミ生と一緒に、「王将えらいなぁ、大事にせんと」と話したことを記憶しています。女性や人種も含めてですが、外資系企業がダイヴァーシティ(多様性)を重視するのは、属性にとらわれずに人を採用すれば、より有能な人材が採れると考えられるからです。「企業の社会的責任(CSR)」からのアプローチではなく、むしろ純粋に企業の業績に貢献すると考えるのです。

同性愛・両性愛など、どちらの性に性的関心が向くかを性的指向(sexual orientation)と呼びます。この性的指向に関する平等というのは、どこの憲法にも、なんの人権規約にも書かれていません。20世紀後半に初めて問題として認識され、21世紀にようやく「市民権」を得るようになりはじめたという意味で、いわば「21世紀の人権」と言うことができます。

2012年のアメリカ大統領選挙は、候補者のひとり(オバマ大統領)が初めて同性愛者の権利尊重を訴え、そしてそれが初めて得票のうえでもプラスに働いた、米国憲政史上、画期的な選挙だと言われています。日本の国会議員でも先だって、初めて同性愛者であることを明らかにする議員が登場しました。

さらにこの7月1日から、男女雇用機会均等法のセクシュアルハラスメントについて、異性間だけではなく、同性間も事案の対象となります。「おまえ、ホモだろ!」といったみなさんのちょっとした無理解が、「人権問題」となることに早く気づいてください。

私のゼミには、毎年、LGBTの学生さんがいます。日本社会のLGBTに対する差別と闘いながら、それへの怒りを逆にエネルギーとしつつ、でも冷静に研究を進める姿勢には、頭の下がる思いがします。彼女ら・彼らのためにも、日本の同性愛に対する理解が進んでくれればと願っています。そして、それがビジネスの側から見ても十分にプラスになるということを、わかってほしいと思います。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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