EVベンチャー、テスラが特許を開放する狙い カリスマ起業家が仕掛けた大胆な戦略
「電気自動車技術の発展に貢献することになると信じている。だからこそ決断に至った」
電気自動車(EV)ベンチャー、米テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEOはそうコメントした。6月12日、同社は保有する約200の特許(加えて現在280件出願中)を開放すると発表。拠点を置くシリコンバレーでも大きな反響があった。業界の事情に詳しいブルー・フィールド・ストラテジーズのアナリスト、フィル・キーズ氏は「テスラの動きは大胆だが、(5月にグーグルとアップルがスマートフォンの特許訴訟で和解したように)特許紛争を避ける動きはシリコンバレーのトレンドになりつつある」と解説する。
マスク氏はテスラのCEOであると同時に、宇宙ベンチャー、スペースXのCEOも務めており、技術革新に意欲的な人物だ。
昨年は1977年に上映された「007私を愛したスパイ」で使われたロータス・エスプリの潜水艦を1億円で購入したことが話題を呼んだ。マスク氏は「空を飛び、水面下に潜れる車を開発したい」とも語っている。実際、テスラのコミュニケーション副社長のサイモン・スプロール氏は、「空飛ぶ車の生産計画は今のところないが、潜水可能な車2~3台程度の生産予定はある。時期は未定」と言う。
現在、世界で最も影響のあるビジネスパーソンの一人といわれるマスク氏。特許開放の狙いは何だろうか。
普及が進まないEV
EVは日産自動車、ゼネラルモーターズ(GM)、三菱自動車など、大手自動車メーカーが開発を進め、市場に投入している。だが、全世界で年間1億台近く売れる自動車のうち、EVが占める割合は1%にも満たない。
最低でも823万円(日本での販売価格)のセダン車「モデルS」の年間販売台数は昨年で約2万2000台。今年は約4万台に迫る、とあるアナリストは推定するが、ガソリンエンジンの車の足元にも及ばない。1台約400万円の量産型EV、日産リーフでも、2010年から今年5月までの世界累計販売台数は約11万5000台だ。
販売のネックになっているのは、充電時間。モデルSはバッテリー容量が60kWh(キロワット時)の場合、一度の充電で約370キロメートル走行するが、家庭用電源からの充電には時間がかかる。
容量を85キロワット時に増やせば、走行距離が480キロメートルに伸び、テスラ独自の充電スタンド「スーパーチャージャー」が無料で利用可能だ。スーパーチャージャーを使えば40分で80%充電できる。ただし、北米に97カ所しか設置されていない。アジアにいたっては中国に3カ所あるだけだ。
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