ローランド、MBOをめぐる泥沼化の構図 何が創業者と経営陣の対立を生んだのか
対する経営陣は、今回のMBOに参画するタイヨウ・ファンドについて、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用の一部を委託するなど、客観的に見て信頼性が高い。ローランドの事業や理念への理解も深い」(三木社長)と抗弁する。
タイヨウがローランドに出資してからの約7年間、両者間で行われたミーティングは130回に上る。経営陣だけでなく、現場のマネジャー層も含めたコミュニケーションを重ねてきた。「楽器にはロングレンジの開発が必要だという点は、梯さんと同じ認識を持っている。ただ、これから10年先に何が花開くのかを見極める方法は、20年前、30年前とまったく同じではない。その点で、私たちとタイヨウの目指す方向に乖離はないと思っている」(三木社長)。
梯氏の怒りを増幅させたのが、財団が保有するローランド株の処分について決めるプロセスだ。財団は1994年、梯氏の全額出資により設立された。2011年には公益財団法人の認定を受け、電子楽器のコンサートなどを開催してきた。現在もローランド株の10%弱を保有する筆頭株主だ。
今回のMBOに関する決議では、財団の理事長である梯氏ではなく、専務理事が理事会を招集し、TOBに応じるかが話し合われた。議事について事前に説明する機会も「(票を持つ)理事9人全員に設定されたわけではなかった」(財団理事で梯氏二男の郁夫氏)。
これを不服とした梯氏は理事会の定款に基づき、決議の無効を主張。そのため、最終決定がなされる評議員会の開催が今も延期されている。梯氏は「株主総会前にMBOをやってしまえという意思が丸見え。これでは乗っ取りというほかない」と徹底抗戦の構えだ。
徐々に積もった不信感
経営陣に対する梯氏の不信感には、伏線があった。海外の生産会社や関係先から、ローランドの対応のずさんさを指摘する連絡が、ここ2年ほど、梯氏の元にいくつか届いていた。「現役で活躍する従業員の引き抜きや工場閉鎖の際は、相手の気持ちを考えて慎重に進めなければならないのに、現経営陣のやり方はめちゃくちゃだ」(梯氏)。
これに対し三木社長は「当事者たちにとって厳しい決断だったのは事実。ただ、こちらも時間をかけ、誠意を見せた。対応がまずかった点はないと思う」と釈明する。
両者の間でボタンを掛け違えたまま進んでしまった今回のMBO。TOBの期限である6月25日まで1カ月を切った段階でも、財団が応募するか否かは結論が出ていない。
仮に財団が応募しなくとも、経営陣が議決権ベースで株式の3分の2を獲得できれば、TOBに応じなかった少数株主を排除する手続きを行うことはできる。ただ、買い取り価格を不服として株主に訴訟を起こされたり、こうした“火種”を金融機関が嫌がり必要な資金が借りられなくなったりと、MBOに支障の出る可能性がある。ローランドをめぐる混乱はまだ収束のメドが立たない。
(「週刊東洋経済」2014年6月7日号<6月2日発売>掲載の「核心リポート04」を転載)
ローランドの株価・業績 は「四季報オンライン」で
ログインはこちら