ローランド、MBOをめぐる泥沼化の構図 何が創業者と経営陣の対立を生んだのか

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2013年に就任した三木社長は「稼げないローランドでは、新たな夢を語ることもできない。1周遅れどころか、2周、3周遅れている」と肩を落とす。これまでも国内外で拠点の統廃合を進めてきたが、「上場していると株価や利益の増減を気にしなければならず、どうしても短期間で同時並行の改革ができなかった」。今後は非上場化を機に、拠点の統廃合のスピードを上げつつ、約500ある製品点数の削減にも取り組み、スリム化を進める考えだ。

この動きに対し「待った」をかけたのが、ローランド創業者の梯氏である。自身が理事長を務める公益財団法人、ローランド芸術文化振興財団の保有するローランド株9.79%を手放さない意向だ。

1972年にローランドを設立した梯氏は、30年以上にわたり同社のトップを務めた。メーカーを問わない電子楽器の世界共通規格「MIDI」の制定で音楽産業の発展に寄与したとして、2013年にはテクニカル・グラミー・アワードを受賞した。まさに音楽界のレジェンドである。

立て直しの必要性では一致

梯氏も、ローランドの経営立て直しが急務であるという点や、非上場化して株主の圧力を受けない経営をするべきという点では、経営陣と認識がほぼ一致している。その一方で、「赤字時代から役員だった人がずっと居座っている。ここを変えることが先決だ」とも指摘する。売上高の80%近くを海外が占めている中、海外赴任経験のある若手の登用も不十分だと言う。

だが、こうした点よりも、経営陣と梯氏の間で決定的に意見が分かれているのが、ファンドに対する考え方だ。

梯氏は、あくまでファンドに頼らない立て直しが必要だと訴える。「MIDIしかり、ローランドが作っている楽器やシステムは何十年も経ってから評価されたり、売れたりするもの。短期的な利益を追求しなければならないファンドの人には理解しがたいことだろう」と力を込める。

ローランドは、大型プリンタなどコンピュータ機器を扱う子会社、ローランドDGの株式を40%所有している。売上高、利益ともローランドの連結業績の約半分を占める同社だが、音楽事業とのシナジーは薄い。DG株を売って元手にすれば、ファンドを入れない形でもMBOを行えるというのが梯氏の主張だ。

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