受精卵だけ「渡航」で男女産み分け 生殖資本主義と欲望の果て
規制のない国へ
日本には着床前診断に関する法規制はない。1998年に、日本産科婦人科学会(日産婦)の会告(指針)が、(1)について日産婦に申請して承認された場合に限り認め、(2)や(3)は禁じている。かつて会告を破って国内で男女産み分けを含む着床前診断に踏み切った大谷徹郎・大谷レディスクリニック院長が、学会を除名処分された。今では「もう男女産み分けはしない」と公言している。
どうしても希望する人は、規制のない米国やタイなどへ渡航している。卵子提供、代理出産などと並ぶ「生殖ツーリズム」のメニューの一つだ。希望者は二通り。不妊治療が主目的で、「選べるなら女(男)の子が欲しい」と「オプション」として金額を追加して着床前診断を受ける人と、産み分けが主目的で、自然に妊娠・出産できるのに、着床前診断のために体外受精をする人だ。
男女産み分け目的で着床前診断を受ける場合、不妊症でなくても顕微授精による体外受精が必要となる。その妊娠率は全国的に見ると3割程度と低い。そのため体外受精を何度も行う必要が出てくる場合があり、出産に至るとは限らない。思いのほか費用と時間がかかる場合もあるが、あえて選ぶ人はいる。
9割は女の子希望
卵子凍結や代理出産、着床前診断を含む幅広い領域での医療コンサルティングを米国で行うさくらライフセイブ・アソシエイツ(ニューヨーク)によると、06年頃から、米国に滞在し、産み分けを目的に着床前診断を受ける夫婦は、同社だけで年平均60組にものぼった。トータルでは600件近く相談を受けた。産み分け希望の日本人依頼者の9割は、女の子希望だった。理由はさまざま。ある女性は、「うちは男の子2人で、町で女の子を見ると涙が出てくる。どうしても女の子が欲しい」と話した。
ところが11年頃から相談が減り、今は男女産み分け目的のコンサルを行うケースは0組に。
「そうした需要の方は、廉価なアジアに流れていきました。まるでショッピングのように」
と代表の清水直子さんは言う。
米国で検査を実施し、渡航費、滞在費を含んだ場合の価格は、「おおまかに450万円前後」(清水さん)が相場だ。
「日本にいながら」のCGLは「費用についてはお答えできかねます」というが、ホームページには、タイに渡航した場合の総費用を200万~250万円程度と示した上で、「タイと比較しても同額程度」とある。米国に渡航する場合の約半分だ。
同様に米国の医療機関と提携しているコンサル会社「Gender Selection」のホームページでも、費用は約250万~300万円としている。こちらは、受精卵の細胞の一部を抽出し、米国の研究所に送る。抽出済みの受精卵そのものは送らないで冷凍。判定結果をデータとしてもらった上で、日本で凍結保存していた中から選択する。