日本のコロナ対策「寄り添う支援」が重要な理由 「帰りたくない」と帰宅を拒む軽症者の若者たち

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しかしその分断や排除を防ぐのも福祉です。私はマクロのソーシャルワーカーとして軽症者施設を出た若者と関わりを持ち、彼らが行政や医療関係者に伝えたことと現状に違いがあるのかを調べました。

そこでわかったことは次の2つです。1つ目はコロナの後遺症は思ったよりひどいことです。私が現在も定期的に関わっている多くは20代の若者ですが、約3割が後遺症(倦怠感や胸の痛み、呼吸しにくい、味覚障害)などが今なお残っているのです。明らかにコロナは厄介な疾患であり予後も悪いです。

2つ目は福祉的視点で接したために、本当の人流データがわかったことです。わずか数百人のデータですがそれをもとに今までの人流データを改良できました。その結果、夜の街関連の方々など感染確率が高い集団がある地域に行くことが事前にわかり、その地域の繁華街に入ったことも確認できたので、その自治体にこれからコロナの感染者が増えるということをお伝えできました。

7月のことだったのですが、その自治体の感染者数の増加はまさに疫学数理モデルの教科書を見ているようでした。しかしその自治体の対応は素早く、ほかの自治体からも応援要請し、ひとまず収まったところです。

行政のデータというのはすべて正しいわけではありません。それは人が関わるからです。そして分断や排除が起こるとますます真のデータから遠ざかります。それを知らないと、ネットにあるデータだけで自粛前に感染者数が減っているから自粛が要らなかったなどの「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入力するとゴミが出力される)」となってしまうのです。

福祉とデータサイエンスというのは、人や社会を対象にしているため、あまり正確ではない量的データの上にその地域や関連するシステム、そして対象者との関係性をもとに、人の感情や関係性をマルチレベルに加えて分析するのですが、今回、その自治体に感染拡大前に情報を伝え準備体制を整えることの支援ができました。

「青年」にも投資する政策を

日本では大きな災害が10年以内に複数発生しています。その影響を最小限にするのがまさにこの分野の研究者の使命です。しかしわが国は社会階層を変革できる唯一の政策である教育と福祉に先進国で突出するほど投資をしないので、これから社会階層の固定や分断や排除が進むと思います。分断を続けると回復力が弱くなり社会にダメージを与え続けます。

今回のコロナ対策の国際比較では、分断や排除をしている国ほどコロナ対策がうまくいっていないのです。今後、わが国に災害や疫病が発生しても、その対応はより困難になるでしょう。

さらにわが国は教育に極度に投資しない国なので、国際比較でも大学のランキングや論文数も低下し続けています。大学院生が借金で学費を払って生活費もアルバイトで稼ぎ研究に注力できないなんて先進国はありえません。これからはさらに予算は削られ、少ない研究者でやっていかざるをえないでしょう。

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今回、コロナ第1波時に、もし首都直下型地震などの災害が起こったら、どう対応すればいいかシミュレーションしましたが、他国より明らかにすべての人材のリソースが欠乏し分断が進んでいるため、うまく対応できないという結論になりました。

しかし希望もあります。公表データだけで自治体の不適切なデータを見抜き、それに基づき第1波の真の推計を出して自粛の効果分析をして送ってくれた大学院生、ある手法で私以上の人流データを手に入れ、感染予測モデルを作ったデータサイエンティスト、まだまだわが国は若い優秀な方々がたくさんいますし、子どもだけでなく、そのような「青年」にも十分投資をする政策となっていってほしいと思います。

和田 一郎 獨協大学国際教養学部教授

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わだ いちろう / Ichiro Wada

筑波大学大学院人間総合科学研究科(社会精神保健学)修了。博士(ヒューマン・ケア科学)。専門はデータサイエンス。社会福祉士、精神保健福祉士。人口減少社会における公共サービスの在り方、行政DXの活用や震災・疫病などの危機時における子ども等の弱者の支援におけるデータサイエンスの活用 などを研究している。

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