疲弊する「ドキュメンタリー番組」制作現場の闇 「追撮地獄」に悩まされるテレビ報道の職人たち

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「NHKは本当にたくさんの人が出てきて、何回も何回もチェックされます。『細かいミスをチェックするのが生きがい』みたいな偉い人がたくさんいて、プレビューが延々と続きます。あと、『誰に当たるか次第』というところはありますね。いかにも性格が悪そうなおじさんプロデューサーに当たると、ネチネチと嫌味を言われたり、罵倒されたりします」

こう答えるのは、大手制作会社のプロデューサーFさん。今や大手制作会社はNHKで経営が成り立っているような感じなので、「外れプロデューサー」に当たったら「嵐が過ぎ去るのを待つように、ひたすら耐える」のだという。

前出のDさんは、NHKでこんな経験をしたという。

「ディレクターがほぼ1カ月間、編集室に軟禁状態になったことがあります。今、普通オフライン(荒い編集)はパソコンの動画編集ソフトでやるのが常識ですが、NHKはオフラインをパソコンでやらせてくれなくて、局内の編集室でやらされるんです。

でも、このオフラインの編集マンがベテランでめちゃくちゃ威張っていて、何もディレクターの言うことを聞いてくれません。勝手に映像をつながれてしまうのを、ディレクターは黙って後ろで見ているだけです。

たまに『ここはこういうことでいいのか確認してください』とか言われて、確認作業や使用する映像の許可取りをするくらい。その間ほかの仕事もできませんから、本当に困ります。でも、民放に比べればそのほうがだいぶマシですけどね」

とにかく民放もNHKも、なぜ局員はあんなに態度が「上から」なのか、というのが昔からDさんは許せないという。

「ある民放の局員から酒の場で『われわれは受験戦争を勝ち抜いて、就職戦争を勝ち抜いて局員になったんだから、制作会社の奴の言うことを聞くことはない』と言われたことがあります。最近は『テレビの危機』とかよく局員が言っていますが、きっと本当には気にしていないと思います。ポーズだけですよ。危機なのは制作会社で、自分たちは安泰だと思ってると思います」

そして誰もいなくなる?

Dさんの会社は最近、企業などのVTRの制作の仕事が増えているという。そして、そのほうがやりがいを感じるとも言うのだ。

「一般企業の人は、僕たちに頼ってくれます。そして、完成したVTRを見て『すごいですね。本当にありがとうございます』と感謝してくれる。うれしいですよね。少ない予算でも、できるだけ頑張っていいものを作ろう!という気持ちになれるんです」

人は誰でも、仕事にやりがいを感じたいものだと思う。番組制作会社の人たちも、やりがいを感じながら気持ちよく仕事をやりたいと思って当然だ。ましてや、「番組を作れば作るほど赤字」というような状態では、いつまでテレビ番組を制作し続けてくれるのだろうか。

YouTubeをはじめとするネット動画や、制作費が潤沢なNetflixなどに優秀な制作者たちが流れていってしまえば、テレビはますます窮地に追い込まれることになるのではないかと、テレビ業界の端くれにいる者として危惧を持たざるをえない。

本当にオワコンなのは、テレビなのか。はたまた、「テレビ業界の歪んだあり方」なのか。もう一度考え直してみるときが来ているのではないだろうか。

本連載「テレビのミカタ」では、匿名であなたの置かれている現状を語ってくれるテレビ関係者からの情報・相談を募集しています(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
鎮目 博道 テレビプロデューサー、顔ハメパネル愛好家、江戸川大学非常勤講師

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しずめ ひろみち / Hiromichi Shizume

1992年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなど海外取材を多く手がける。またAbemaTVの立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルのメディアとしての可能性をライフワークとして研究する。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社・2月22日発売)

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