菅義偉は安倍晋三のような悪代官になれるのか 中間層の税負担増やしたアベノミクスの裏の顔

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こうした状況で、いつまで「感染即隔離」というウイルス対策を取り続けるのか、そこに政治としての答を求められる日は眼の前に来ているように思う。すなわち「指定感染症」の解除といった明確な方針の表明である。

今回の感染症の性質の変化に人々が気づき始めた今、ただ感染拡大防止をと叫んでいるばかりでは、あの「オオカミ少年」の物語のように、政治も専門家たちも人々の信頼を失うだろう。9月連休における活発な旅行や人出を見ても、その可能性は高まっているのではないだろうか。

だが、より本質的かつ長期的視点から菅に必要なのは、財政をどうするかの議論を始めることである。今回のウイルス禍に対して行われた財政出動は、全国民への一律10万円給付を含め、従来の景気対策的な文脈からのものではない。景気対策としての財政出動であれば、その見返りは将来の景気回復から得られるはずである。しかし、そうした将来への「投資」という側面を持たない被害者救済的な財政出動の落とし前をつけるためには、従来の課税理論を超えた税体系全体の抜本的見直しが必要なはずである。答えはあるのだろうか。

新たな「拡張付加価値税」の設計を

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私は、答えはあると思っている。それは、法人税や個人所得税のような価値分配に対する課税を廃止あるいは大幅に縮小する一方、今の消費税つまり付加価値税の仕組みを拡張し発展させて「拡張付加価値税」ともいうべき新税を創設し、それを軸に税体系の全体を再設計することだ。

拡張付加価値税という考え方そのものについては拙著『ポストコロナの資本主義』(日本経済新聞出版、2020年8月)を参照してほしいが、狙いはファイナンス取引を取り込むことと、勤労者世帯の生計費の控除を可能にすることである。

むろんのこと、危機に備える方法は拡張付加価値税に限られるわけではない。ただ、今回を教訓とするのなら、さまざまな巨大リスクに耐えられる税制の新レジームを設計することは、次への備えの政治的コアであるはずだ。そうした税制の再デザインにより、フラットで全体整合性のある税体系を準備しなければ、次の危機に備える財政の機動性を確保することなどできるはずがない。それを避けてデジタル庁新設などという行政統廃合でお茶を濁していれば、菅内閣は単なる中継ぎ政権で終わるほかはあるまい。

安倍政治の継承という看板を掲げ続けるだけでは、菅は「悪代官」にすらなれないだろう。
 

岩村 充 早稲田大学名誉教授

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いわむら みつる / Mitsuru Iwamura

1950年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行企画局兼信用機構局参事を経て、1998年より2021年3月まで早稲田大学教授。2021年4月より早稲田大学名誉教授。2017年7月に(社)自律分散社会フォーラムを設立し代表理事に就任。『国家・企業・通貨』(2020年2月・新潮選書)、『ポストコロナの資本主義』(2020年8月・日本経済新聞出版)など著書多数。

 

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