3月10日のコラムでは、デフレが始まった約20年前から、事業を始める開業率の停滞が続く一方で、廃業率だけが上昇していることを紹介した。巷では、「不況で企業の淘汰という新陳代謝が進まないと起業が活発化しない」という「妄信」がいまだに根強いが、実際にはデフレと低成長で、企業の淘汰だけが増える一方、起業が増えないことがデータで示された。
冒頭で紹介した統計は「個人」に対する調査だが、デフレとともに「起業」というアクティビティが、さすがに半減は大げさだとしても、大きく落ち込んでいることが明確に示されている。
デフレ下では、起業というリスク行動はとりにくい
日本における起業活動の停滞について、意識が高い人々を中心に、「起業に対する日本人の意識を変えなければいけない」「従順なサラリーマンを育てる教育が悪い」、さらには「起業を支援する制度を充実させるべき」など、さまざまな意見が出されている。
ただ、高度成長期以降、デフレと経済停滞が始まった1990年代半ばまでは、日本では起業は活発だったのだ。だからこそ、経済が発展し日本人は豊かになり続けた。
では、なぜ、日本人は起業しなくなったのだろうか。過去10数年余りで、日本人が臆病になったのか?日本人の意識が大きく変わったのか?日本の教育が大きく変わったのか?それとも起業を支援する制度が、かつては充実していたのか?
いずれも筆者は違うと思う。日本で起業活動が衰え始めた時期と、物価に責任を持つ日本銀行の政策でデフレという異常な経済状況が始まった時期はほぼ同じだ。デフレが長期化して、起業というリスクをとる行動に、経済合理性を見出すことが難しかったから、と考えるのがもっとも自然である。
戦後は、正しいマクロ安定化政策が続き、このため経済が安定的に成長した。だから、既存企業が切磋琢磨し、あるいは起業による新たなプレーヤーによる技術革新が経済活動を活性化させ、日本の経済発展を支えた。
バブル崩壊後の経済安定化政策を誤り、「デフレでも仕方がない」と考える中央銀行の政策により、日本経済は常に抑制されてしまった。このため、低成長が続き、起業というリスクをとるコストが、多くの合理的な日本人にとって極めて大きくなっていたのだ。
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