前回のコラム「消費増税を急げば、財政健全化はできるのか」では、どうしたら、税収が増えるかを説明した。すなわち、日本経済がデフレから抜け出し、同時に労働市場で人手不足が恒常化するような、「経済正常化」を実現する過程で、はじめて日本の税収は大きく増えるのである。
現在は、こうした正常な経済状況に戻す努力が、ようやく始まったかどうかというところだ。にもかかわらず、日本の財政赤字や公的債務が「深刻だ、危機的だ」と論じていいのかどうか。筆者は、そう簡単に判断できないと考えている。
本当に消費増税は、必要だったのか
実際、2000年代の小泉政権による経済政策運営においても、「デフレからあと一歩で抜け出す経済状況」が実現しただけで、増税前の税収構造で財政赤字はかなり縮小した。
それは、税収と財政赤字を比較した右のグラフをみれば、明らかである。
また2011年の東日本大震災の後も、実は日本政府の歳出は相当抑制されていた。このため、インフレ実現と経済正常化による税収底上げで、仮に消費増税が実現しなくても、2013年からの脱デフレを伴う景気回復で、財政赤字は2000年代半ばと同様に改善する可能性は十分あった。
ただ、アベノミクスで公共投資を中心に政府の歳出が上積みされたため、徹底的な歳出抑制が続いた2000年代とは異なっている。実際には、4月に実施された消費増税は、公共投資上乗せなど、公的部門の権益拡張を伴う歳出拡大に充当されている面が大きいようだ。消費増税が決まってから、社会保障サービスの拡充などの具体的な歳出拡大は、ほんのわずかしか決まっていない。
アベノミクスにおける第2の矢を「財政政策全般」と考えれば、経済正常化につなげる政策として機能しているとは言い難い。1)消費増税が経済成長率を下押しし、脱デフレを妨げている、2)景気対策として、供給不足が明らかな建設業などへの偏った歳出(公共投資拡大)が実現した、という2つの点で、「第2の矢」は弊害の方が大きくなっている。
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