見逃し配信「TVer」はYouTubeの敵になれるのか 株式会社化でテレビ局が挑む動画配信の成否

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TVerの株式会社化が決まったということは、その時点で配信サービス確立のための努力を各局がすると決意したことでもあるはず。数年前までならまず反対の声が聞こえたことでも、今後は実現する前提で議論することになるだろう。龍宝氏の話から、これまでよりずっと前向きなテレビ局の意志が伝わった。

さてTVerはテレビの変化に間に合ったのだろうか。誕生から5年でようやく株式会社となった、つまり本腰を入れた。この目まぐるしい時代に5年もかかったのは、遅きに失したのではないかという気がする。

いまだにCM枠が番宣ばかりなのは、私がTVerの広告主のマーケティングターゲットである20〜30代女性の枠から大きく外れているからという理由もひとつにはある。だが、それにしても5年も経っていることを考えると広告が埋まらなすぎだ。今から既存の動画広告メディアに対抗して間に合うのか。ハードルはかなり高い。

YouTubeはますます活性化しており、去年からはテレビで活躍するタレントたちがこぞってチャンネルを持ち、莫大な再生数を稼いでいる。もはやYouTubeのほうがメジャーで、テレビ放送のほうがマイナーに思えてきた。テレビはあまりにも高齢化に最適化してきた結果、メディアとしての鮮度をほとんど失ってしまった。そういう意味で、テレビ全体として遅きに失した感も否めない。

YouTubeにはないTVerのCM枠の優位性

一方でYouTubeのCM枠、そしてさまざまなネットメディアの中に急速に増えてきた動画広告枠が、広告としてどれだけ機能しているかは疑問だ。私自身、YouTubeを開いて広告が出てくるとスキップすること以外考えない。出てきたCMの中身なんて見てやしない。記事中に出てくる動画広告枠も記事を読む際、邪魔でしかない。最近はひとつのページに動画広告が複数出てきて不快でさえある。ネット広告が持つ“乱暴さ”が、動画広告にはより一層滲み出ているように思う。

だから龍宝氏が言っていたTVerのCM枠の優位性は確かにあると、ひとりのユーザーとして感じる。その優位性の示し方は簡単ではないが、きちんとした調査をやれば出てくるのではないか。メディアの進化はこれからだ。コロナがそれを加速している。TVerはその進化の中の重要なメルクマールになる気がする。

そしてTVer自身の進化にも期待したい。意外にネットで大きなポジションを獲得できるかもしれない。その鍵は結局、テレビ局が握っている。テレビ局そのものが進化できるか、その気が本当にあるかがTVerを左右する。つまりテレビが自分で未来へ向かう意志があるのかどうかが、TVerを通して試される。コロナ後のメディア状況を切り開けるかは、テレビ局自身が決めるのだと思う。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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