Jリーグ、観客動員再開で直面する"新たな闘い" 来場者数が思うように伸びないのはなぜか

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FC東京のサポーターだったら選手入場前の定番曲である「You’ll Never Walk Alone」を歌いたいという人も少なくないだろうし、浦和サポーターなら「We are Reds」の大合唱をしたいと考えるのが当然だ。そういうニーズにどう応えていくのか。Jクラブも知恵を絞っていくしかない。

地方クラブの模範として知られる甲府は、リモートマッチで看板広告をバックスタンドに掲げるなど、さまざまな工夫を試している(写真:筆者撮影)

地方クラブの模範として知られるJ2・ヴァンフォーレ甲府の運営担当・植松史敏氏は、こんな話をする。

「われわれの有観客試合初戦だった11日のツエーゲン金沢戦は、3100枚のチケットを販売したところ、入場者は1500人と予想の半分以下になりました。この試合は飲料販売のみにとどめ、グッズ販売も入り口と出口が密にならないように5〜6人ずつに制限する形を取るなど、厳戒態勢を取ったので、観客の方に楽しんでいただけるプラスアルファが少なかったのも要因だと考えます。

18日の大宮アルディージャ戦以降は飲食店を出店し、イベントブースも増やしていく方向。リモートマッチのときから実施していた山梨中銀スタジアムの舞台裏のYouTube配信も、7月いっぱいは継続していきます。入場時の検温の様子やスタンドで観客がどのように試合を見れるのか、選手・監督はどんな動きをしているかといった様子がわかれば、来場を控えているサポーターも足を運びやすくなるでしょう」

甲府の場合、7月の有観客ホームゲーム3試合は3100人、8月以降は7500人の集客を見込んでいる。その前提で、今年度の年間営業収益(売上高)10億円死守を目指して、クラブ一丸となって営業活動に力を注いでいた。

だが、金沢戦のように入場者数の低空飛行が続けば、その収支予想も下方修正が必要になり、さらなる経営悪化も考えられる。それは甲府のみならず、全クラブにいえること。だからこそ、生観戦の魅力と楽しさをより強く告知していく必要があるのだ。

ファンサービスのニューノーマルを探る闘い

観客の来場促進策の一案として筆者が考えるのが、生メッセージの録音サービスだ。サポーターは試合中に大声を出したり、チャントを歌ったりはできないが、選手や監督、チームに対して言いたいことはある。それを試合前後に録音してもらい、実際に届ける、あるいは次の試合時に流す形はどうだろう。

そうすれば、コロナ感染リスクは避けられるし、ファンは思いのたけを存分にぶつけられる。ほめるのもありだし、文句を言うのも自由。ブーイングを浴びせてもいい。

今は各クラブともリモート観戦時のメッセージ送信サービスは行っているが、試合会場で声を出すというのはやはり格別。ライブならではの試みを取り入れることで、少しずつサポーターが戻ってくる可能性はありそうだ。

「確かにこれまでは感染予防対策の方に気を取られていて、クラブ全体がそちらに集中していました。でもここから先は、集客に力を入れなければいけない。サポーターが喜ぶアイデアをどんどん出さないと、観客を取り戻すのは難しい。新たなチャレンジができるように努力していきます」(甲府・植松氏)

ウィズコロナ時代のJリーグ観戦は、過去にない大胆な発想が求められてくる。サポーターに新たな応援スタイルを要求するだけでなく、リーグとクラブも変わらなければならない。それはまぎれもない事実だろう。

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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