Jリーグ、観客動員再開で直面する"新たな闘い" 来場者数が思うように伸びないのはなぜか

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彼女のような熱心なサポーターはもちろんシーズンチケットを購入していたが、今回のコロナ騒動でリセットとなり、試合ごとにチケットを買わなければいけなくなった。その手間が増えたうえ、単価も上昇した。

ゴール裏の場合だと、シーズンチケット会員価格は3万9900円で、1試合当たりの単価は1900円だったが、山口戦の同席前売券は3150円。「歌ったり、大声で叫んだりといった応援もできないのに、チケットの値段が上がるのなら、わざわざ行かなくてもいい」と考える人が増えるのも、ある意味、自然の成り行きなのだ。

オンラインのチケット購入のみで苦労した年輩サポーターも(写真:筆者撮影)

一方の清水でも、オレンジ色のサポーターからさまざまな意見が聞かれた。

「自分は有観客試合を楽しみに待っていたから真っ先に来たけど、『サッカー観戦でコロナに感染したら会社に言い訳ができない』と見合わせた人がいた」(市内の50代男性)

「7月の試合はチケット販売が1週間前からで、しかもすべてオンライン。自分のような年配者はどうしたらいいかわからず、かなり苦労した」(60代のベテランサポーター)

「ウチは家族全員が熱心なエスパルスサポーター。子どもたちも『絶対に行きたい』というので来たが、二の足を踏んだ人もいたみたい」(地元の30代ファミリー客)

当日は昼から夕方にかけて猛暑に見舞われ、マスク姿でスタジアム前にたたずんでいるだけで大変な状況だった。飲食店やグッズ販売店も出ていたが、数は通常時の半分。3密を懸念して、店から離れたところで仲間と雑談するサポーターの姿も目立った。

「観客の方に生観戦ならではの楽しみを提供する仕掛けを考えていきたいですけど、コロナ禍の今は感染対策が最優先。特別なファンサービスなどはなかなかできないですね」と関係者も語っていた。

当初は5000人の動員を期待しながら、前売り段階で3600枚、当日券を含めて4131人の入場にとどまったのも、こうした難しさを物語っている。

コロナ感染動向を考えると慎重になるべき

Jリーグの村井満チェアマンは「お客さんの前でサッカーができる喜びを改めて噛み締めている」と感謝を口にしつつも、集客については慎重な姿勢を示している。

「関東中心に感染拡大の懸念があり、その動向を考えながら非常に慎重に考えていくべき。8月1日からの観客数50%も上限を示している内容なので、必ず50%入れなければいけないものではない。個々のクラブが地域の事情や都道府県知事の助言・指導に基づきながら、上限どおりのチケッティングをしていいか、上限より下にすべきかはクラブの置かれた感染状況とスタジアムの形状、さまざまな要因を勘案して決めていく」

やはり、Jリーグが元の姿に戻るのは簡単ではなさそうだ。とくに数々の負担を強いられるサポーターの楽しみや権利をどう守るのかという部分は今後、真剣に考えていかなければならない部分だろう。

実際、コロナ禍のJリーグ観戦では、応援にさまざまな規制が設けられている。容認されているのは、横断幕やゲートフラッグの掲出、タオルマフラーを掲げることだけ。声を出しての応援や指笛、太鼓などの楽器と鳴り物の使用、ハイタッチや肩を組むこと、タオルマフラーを回すなど、これまでサッカースタジアムで日常的に行われてきたことの大半が「コロナ感染リスクがある」と判断されてしまうのだ。

磐田と清水のゲームでは、好プレーが出たとき、チャンスが生まれたときには拍手が鳴り響き、得点シーンでは大拍手とともにタオルマフラーが堂々と掲げられるなど、サッカーどころらしい目の肥えた応援スタイルが目についた。だが、それだけで満足できない人もいるかもしれない。

実際、12日の浦和対鹿島戦でも、一部のサポーターが指笛を吹く違反行為を犯し、問題になっている。村井チェアマンは「サッカーを愛する人としてありえない行為」とコメントしたが、コロナ時代の応援に不慣れなサポーター側も苛立ちと難しさを抱えている可能性はゼロではないだろう。

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