コロナでも「客トラブルゼロ」台湾そごうの秘訣 非常事態で見えた、店と客の「望ましい関係」

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「遠東SOGO」では、新型コロナウイルス流行下にあっても、営業時間の短縮や休業などをすることなく営業を続けてきた。これは台湾のほかのデパートや商業施設も基本的には同じで、政府の方針に沿ったものだ。

太平洋崇光百貨股份有限公司の副社長、播本昇(はりもと・のぼる)氏(写真:筆者撮影)

かなりの人が出入りする「遠東SOGO」を、コロナ問題の渦中も営業する中で、お客とのトラブルはなかったのか。

副社長であり、日本のそごう出身の播本昇(はりもと・のぼる)氏に聞くと、防疫対策において来店客とのトラブルはゼロだったという。

「むしろ、こちら側が遠慮していると『これもやらないとダメでしょう』などと、お客様側からお叱りをいただくような状態でした」

後述するが、「遠東SOGO」は入店時の検温など、政府の指針に沿ってさまざまな対策を行っている。充分すぎるほどだが、それにしても台湾のお客はなぜ店側に協力的なのか。

政府の情報や「防疫の要」啓蒙に信頼感

「台湾政府が、ずっと必要な情報を発信し続けてくれたのが大きいと思います。新型コロナウイルス対策責任者の陳時中さんや、デジタル大臣のオードリー・タンさんなど、閣僚たちがその道のプロフェッショナルだから、政府が発信している情報は信頼できる。そして毎日コロナ対策の記者会見をするから、メディアがその情報を拡散してくれるんです。

だから私たちが啓蒙しなくても、お客様は防疫に何が必要かわかってくださっているので、とても協力的です。台湾の方々はもともと健康に対して意識が高いということもあると思います」

感染予防のためには、検温や両手の消毒、マスク着用が極めて重要だが、デパートでの楽しみの1つである試食の禁止や、来店客の動線を細かく把握するために施設の入り口を減らすことなどはどれも客側にとっては不便なことだ。

それでも一つひとつが”防疫の要”であることが、政府が毎日開催するメディアへの記者会見のほか公式FacebookやLINE、インスタグラムにYouTubeなどあらゆるチャネルで啓蒙されてきた。

毎日定時刻に開催される記者会見では、不眠不休で対策に当たる陳時中氏が時間無制限でメディアの取材に応じる姿に多くの人が感動し、「防疫最前線の方々がこんなに必死で立ち向かってくれている。自分にできることはすべてやろう」という気持ちにさせられた。

そこから生まれたのは「きちんと防疫をしていない人は許せない」「感染者は排除されるべきだ」という気持ちではなく、「気づいていない人がいたら手を差し伸べよう」「誰もが感染する可能性がある」という姿勢だったように思う。

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