台湾発の「ローテク電気鍋」が密かに売れるワケ 東芝との技術提携から約60年後のブレイク

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大同日本機電貿易二課係長の陳正修さん(撮影:梅谷秀司)

台湾では電子レンジがあまり普及していないが、それは電鍋が温めや解凍の役割も担っているからだそう。例えば出勤中に中華まんなどを買い、会社の電鍋で温めて朝ごはんにする人も多いという。台湾人にとって、まさに万能調理器。「留学先や駐在先にもみんなこれを持っていきますよ」(陳さん)。

電鍋誕生から数十年、改めてその魅力に反応したのは、台湾好きの日本人女性たちだった。台湾旅行中に電鍋の存在を知り、このレトロな見た目とシンプルな構造にひかれお土産として買う人がじわじわ増えていったという。特に「かわいい!」と一目ぼれして飛びつく人は多く、若い世代にもこのデザインは新鮮に映るようだ。

それまで米国に渡った留学生や駐在員が現地で電鍋を購入する実績はあったが、家電先進国の日本市場で一般消費者に受け入れられるかは不透明だったという。そんな折の日本人による土産ニーズが、「日本市場参入の後押しとなった」と、同社機電貿易二課課長の林慕岳さんは話す。

大同日本機電貿易二課課課長の林慕岳さん

2015年に日本で販売を始めた当初こそ、販路が自社運営のヤフーショッピングサイトのみということもあり苦戦したが、徐々に百貨店での実演販売などを通じて浸透。

メディアで取り上げられる機会も増え、特に主婦向け雑誌『マート』に登場したことで認知が拡大した。2019年5月のテレビ放映後は在庫が消えたという。2019年9月からは「誠品生活日本橋」でも販売を開始。いつでも実物を店頭で見られるようになり、売り上げはさらに伸びた。

「現在、購入者の9割は日本人です」と、林さん。主な購買層は、主婦を中心とした30~60代の女性だ。過去に東芝の自動式電気釜が実家にあった年配層が「懐かしい」と感じて手に取るケースも多いという。

今流行の「ほったらかし調理」ができる

しかし、一番の人気の秘密は、忙しい日本人のニーズに応えてくれる使い勝手のよさにあるようだ。

2013年に電鍋を購入したという、大同電鍋研究家の川口美恵さんは「特にほったらかせる点が気に入っています」と話す。

時間のかかる煮物もお手のもの。写真は大同電鍋研究家の川口美恵さんが作った台湾料理・ルーローファン。

電鍋は、外釜に入れた水分が蒸発するとスイッチが自動で切れて保温にシフトするため、ガス調理のように火加減を気にして見張る必要がない。スイッチを入れた後は別の家事や買い物などに時間を費やせるという、今流行の“ほったらかし調理”ができるのだ。例えば夕飯にカレーが食べたいときは朝具材をセットしスイッチを押して出勤し、帰宅後はルーを入れて仕上げるだけ。そんなふうに活用する会社員もいるという。

同時調理ができるのもいい。中に小さな器を並べる方法のほか、「耐熱のお皿や器に箸をかませるなどして段を作る方法も。例えば下にスープ、中央に紙に包んだ魚、上にチキンを載せるなどすれば一気に3品できますよ」と、川口さんは説明する。

筆者は、子どもが赤ちゃんの頃に電鍋があれば重宝したのではと思った。スイッチ1つでスーパーへ行っている間に自分のご飯とわが子の離乳食ができてしまう。なんとありがたいことか。

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