すき家値下げ、吉野家値上げ、どうする松屋 消費増税に伴う価格改定で対応わかれる

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安部社長は値下げ競争に終止符を打ちたい?(撮影:大塚一仁)

2月21日、日本フードサービス協会が行ったマスコミとの懇談会の場で会長を務める安部修仁・吉野家社長はこう話していた。「インフレ誘導の流れの中で、コップの中の戦いばかりしている。値下げよりも付加価値を高めて単価に反映し、商品価値も経済も高めたほうがいいと思う」。

牛丼業界というコップの中で繰り返していた値下げ競争に見切りをつけ、商品を改良して牛丼の並盛を値上げする。日本フードサービス協会長としての発言は、吉野家が打ち出した価格戦略そのものだ。

また、「並盛」という位置づけも会社によって異なる。吉野家では販売するメニュー構成比の実に5割を牛丼並盛が占めるという。ほかの2社は非公表だが、松屋フーズの「松屋」では定食メニューが多いため、牛めし並盛りの割合は4割弱とみられる。すき家はトッピング商品が充実しており、牛丼並盛りの割合は松屋よりもさらに低いかもしれない。そうしたことから、他社と比べて吉野屋が牛丼並盛りの値上げに動く意味は格段に大きい。

松屋はすき家と吉野家の間?

価格改定の方針を明らかにしていない松屋は、「最終決定に至っていないが、化学調味料を使っていない点や味噌汁の無料提供という点を4月以降は訴求していきたい」(広報IRグループ)と説明する。

残る松屋はシンプルに増税分だけ価格に転嫁か?

ただ、具体的な価格設定の選択肢は限られている。

ゼンショーHDは売上規模のうち、牛丼事業が全体の4~5割程度で、残りはファミリーレストランや回転ずし事業が占める。一方、松屋フーズは牛丼事業が9割以上を占める。仮に値下げに踏み切り、集客が思うように上がらなければ、収益に与えるインパクトも大きい。売り上げ構成の違うゼンショーHDと同じ土俵に乗って値下げに動くとは考えにくい。

吉野家のように増税分以上の値上げをすれば、商品の付加価値を訴求する手立てが必要だ。とはいえ、値段を改定する4月までに残された時間は少なく、他社の動きをみていきなり商品改良に動くことも難しい。落としどころは増税分だけを加味した価格、すき家(270円)と吉野家(300円)の間である290円。価格改定の告知は、4月1日の一週間前ぐらいに各店舗で始まるため、対外発表もそのあたりだろう。

従来の延長戦ともいえる値下げですき家の集客力が高まるのか。それとも、吉野家の付加価値戦略が吉と出るのか。その間で松屋がどのような違いを打ち出すのか。消費増税を機に対応が分かれる価格戦略が、各社の業績を大きく左右することになりそうだ。      

又吉 龍吾 東洋経済 記者

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またよし りゅうご / Ryugo Matayoshi

2011年4月に東洋経済新報社入社。これまで小売り(主にコンビニ)、外食、自動車などの業界を担当。現在は統括編集部で企業記事の編集に従事する傍ら、外食業界(主に回転ずし)を担当。趣味はスポーツ観戦(野球、プロレス、ボートレース)と将棋。

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