認知症の数十万人「原因は処方薬」という驚愕 危険性指摘も医師は知らず漫然投与で被害拡大

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この女性は5種類の薬剤を服用していて、精神科領域の薬剤として、抗精神病薬を1種類、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬2種類を飲んできた。小田医師は、これらの薬剤を一気に中止して様子を見ることにした。依存性のあるベンゾジアゼピン系薬剤の急な断薬は危険だが、窃盗の公判中で、また万引きをすれば刑務所行きも免れないので決断した。

薬剤を止めて間もなく、表情が明るくなりよくしゃべるようになった。何より盗癖がピタリとおさまったのには驚いた。MMSEも1カ月後には28点に跳ね上がり、その後も満点近い数値で推移している。認知症の疑いはまったくない。

小田医師が薬剤起因性老年症候群の中で、最も疑っているのがベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬だ。

最も疑わしいのがベンゾジアゼピン系薬剤

1960年代に開発されたベンゾジアゼピン系薬剤は、感情などに関わるベンゾジアゼピン受容体に作用して、睡眠薬・抗不安薬として使われている。日本で発売されているもののほとんどがベンゾジアゼピン系で、後発品を含めて約150種類ある。非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬もあるが、作用機序は同じなのでベンゾジアゼピン系と同じような副作用がある。

ベンゾ系の薬剤の高齢者への安易な処方は、 廃人症候群を生んでいる(筆者撮影)

ところが、1980年代に海外で高齢者への投与が問題となった。服用したベンゾジアゼピン薬剤を分解する代謝が悪いうえ、排泄する能力も低下しているので体内に蓄積され、効きすぎるリスクがある。過鎮静の症状や認知機能、運動機能の低下などの副作用があることが明らかになり、海外では高齢者には「使用を避けるように」と指摘されている薬剤だ。

小田医師の元には、ベンゾジアゼピン系薬剤が原因と見られる患者が後を絶たない。

精神科クリニックで認知症とうつ病と診断された80歳代の女性は、抗認知症薬に抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬剤などを服用し始めて間もなく動作が緩慢になり、終日こたつで過ごすようになった。認知機能はMMSEで17点と低かったが、MRIでは海馬の萎縮は目立たない。薬剤を徐々に減らしてみると、動作が速くなって明るさが戻り、デイサービスに出かけられるまでに回復した。レビー小体型の認知症の疑いは残るものの、MMSEは24点に戻った。明らかに薬剤起因性老年症候群に該当する。

「薬を続けていたら、寝たきりになって意思疎通もできずに亡くなっていた可能性が高い」(小田医師)

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