ウクライナ情勢がさらに悪化すると影響甚大 本村真澄・JOGMEC担当審議役に聞く
ノルド・ストリームはロシアが半分出資し、残りは独、仏、蘭の出資。サウス・ストリームもロシアと独、仏、伊が折半出資している。ロシアと欧州主要国は「エネルギー同盟」と言っていいほど強い経済関係にある。欧州は天然ガスでロシア依存度が約3割に上る。資源大国のロシアとしても、資源は売れなければ価値がない。パイプラインというのは互恵的であり、双務的(安定供給と安定購入の義務)なものだ。1973年に初めてロシアと欧州を結ぶパイプラインが開通して以来、40年にわたって莫大な経済的利益を共に得てきた双方が、それを失うようなことをするとは考えにくい。
そのため、ウクライナ情勢を巡っては、互いに妥協しながらうまく着地点を見つけたいというのが欧州とロシアの本音ではないか。
米国のオバマ政権は「ロシアを孤立させる」と強硬姿勢を見せているが、米国はそれによる経済的なダメージが少ない。一方、ロシアと隣接する欧州諸国は、天然ガスをはじめとする経済的関係が強いため、微妙な対応にならざるを得ない。エネルギー情勢の根本的枠組みを変えるようなことにはならないだろう。
――最悪のケースは、経済封鎖によるロシアの完全孤立化、そして欧米を巻き込む軍事衝突だが。
ガス禁輸などの経済封鎖だけでも欧州が失うものは大きすぎる。天然ガス価格も暴騰する。ロシアより欧州のほうが不幸になるだろう。その点、米国はシェールガス増産で天然ガスはほぼ自給できており、石油も生産量が増えており、欧州とは条件が違いすぎる。
――活発な外交交渉が行われている。
関係各国が振り上げたこぶしをどう下すかが今後も模索されるだろう。たとえば、ロシアのセバストポリ軍港の租借期限を維持し、ロシア系住民の差別をなくすことを暫定政権が保証する代わりに、ロシア軍が撤退するといった妥協案が考えられる。
ロシアとしても、強硬にクリミア占領を続けた場合、クリミア原住民であるタタール族(イスラム教徒)の抵抗運動を刺激し、チェチェン紛争の二の舞になることを恐れているのではないか。
日本の輸入の約1割がサハリン2
――日本への影響をどう見るか。
万一、ロシアからの資源輸入を止めるなどの経済制裁措置を欧米と日本が採った場合、日本はサハリン2のLNG(液化天然ガス)が買えなくなる。日本が輸入しているLNGの約10%がサハリン2であり、値段も比較的安い。値段の高いスポットのカタール産LNGなどで埋め合わせするとなると、コスト面で大きな影響になる。
原油もロシアからは全体の約7%を輸入しており、経済戦争となれば価格も上がるだろう。日本経済にとって打撃だ。安倍政権としても、G7に協調するとはいえ、先頭に立って強硬意見を言えない立場にある。
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