オーストラリア火災で「誤報」流すメディアの愚 メディア王マードックによる情報操作

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「とても無謀で、非常に有害だ」とオーストラリア国立大学の気候科学者で受賞歴のあるジョエル・ゲルギスは言う。「拡散するのでたちが悪い。いったんこうした疑いの種をまくと、重要な議論を止めてしまう」。

ニューズ・コーポレーションは、こうした役割は担っていないと否定した。「当社の報道は、オーストラリアが気候変動とその対処法について議論していることを認めている」と同社はメールで答えた。「しかし、火災の拡大に寄与した可能性のある放火犯と政策の役割は、公共の利益のために報じる正当な内容だ」。

火災時不在のモリソン首相を擁護

しかし、マードックのやり方が突然危険になったように見えると批判する人々は多い。彼らは、ニューズ・コーポレーションと誤報の拡散、そして火災に対する政府のお粗末な対応はつながっているとの見方を強めている。同社とスコット・モリソン首相率いる連合政権は、ほかの先進国より気候変動に対して脆弱であると科学者らが指摘するこの国を守ることができていないことに、共同の責任があると彼らは主張している。

昨年12月、最もひどい火災シーズンにさしかかった際、モリソン首相がハワイで休暇を過ごしていたことで非難が集まると、ニューズ・コーポレーションの編集者とコラムニストは首相の強い擁護派にまわった。

オーストラリアンは同月下旬、気候変動対策についての国連からの「トップダウン」の圧力が失敗するだろうと警告するエネルギー相のアンガス・テイラーのインタビューを大々的に報道。31日にもテイラーの意見記事を掲載した。

ニューズ・コーポレーションのほかの媒体も追随した。例えば、メルボルンのヘラルドサンは、森林火災が近くの町を荒廃させ、濃い煙が同市内に押し寄せようとしているにもかかわらず、そのニュースを4ページ目に掲載した。

その数日後、モリソン首相が被害地を視察すると、壊滅的な被害を受けた近隣の町の住民らはやじを飛ばし、彼をはねつけた。するとマードックが所有するスカイ・ニュース系の番組司会者クリス・スミスは、住民らをだらしない田舎の路上生活者などを意味する「フェラル」と呼んだ。

マードックのメディアでも例外はあるが、その中の主要な媒体で「気候変動」と検索すると、政府に積極的な行動を求めて抗議する人々を非難する記事がほとんどだ。「急進的な気候変動政策」に反対する論説、火災を制御するために野焼きの必要性を強調するコラムなどもある。オーストラリア緑の党は、危険を低減させるための野焼きを支持するとネットで表明している。

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