「ウクライナ機誤爆」で今度こそヤバいイラン アメリカより憂慮すべき国民の反感

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ところが、1979年のイラン・イスラム革命で一転する。この日を境にアメリカは「大悪魔」となり、イスラエルが敵となった。

テルアビブ大学のイラン研究者ドロン・イツハコフ博士は論考で、「ホメイニ師はイスラエルに対する憎悪を、政権を強化するために使える『道具』と考えた。そして、イランの体制にとって、こうした憎悪が中核に位置づけられ、イランのアイデンティティーを形成することになった」と分析する。

イスラムが西側の価値観に脅かされているとの現実的な理由もあった。だが、「イスラム国家の構築」という一大プロジェクトを成し遂げる思想やエネルギーを、アメリカやイスラエルとの対立に求めたのだ。

カナダ人犠牲者が多かった理由

ソレイマニ司令官の殺害をきっかけに国民を団結させるのに成功したイランだったが、大きな誤算となったのが、8日に起きたウクライナ機の誤射事件である。

イギリスのBBC放送によると、176人の内訳は、イラン人82人、カナダ人が57人、ウクライナ人11人など。イラン人に次いでカナダ人が突出して多いのは、1979年の革命の混乱を逃れた旧体制の王政派や、イランの将来を悲観してカナダに渡ったイラン人が多数いるためだ。カナダには現在、イラン系の人々約21万人が暮らしているという。筆者の知人夫婦も数年前、保守的で経済的にも展望が開けないイランでの生活に絶望し、カナダに移住した。

在外イラン人の中には、体制はいずれ崩壊すると予測する人もいる。イラン国民の中にも、イスラム思想を固守して保守的な価値観を押し付ける体制に辟易している人々がいる。だが、イラン国内に革命防衛隊などの暴力装置が張り巡らされており、昨年11月のデモもインターネットを遮断し、自国民数百人を殺害する恐怖支配によって封じ込めた。

イラン情勢が注目される中、トランプ大統領は1月12日、「偉大なイランの人々を殺すのをやめろ!」とツイッターに投稿。アメリカという敵との正面対決をなんとか回避したイランの体制は、国民という内なる難題への対応に苦慮することになりそうだ。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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