500年続く「キリスト教同士の抗争」根深い背景 日本人があまり知らない世界史の"基本"

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根っこにあるのは素朴な宗教的情熱で、「聖像をたくさん寄進すれば神様が喜ぶ」と言われたので人々は競って教会に寄進したのですが、後に「聖像画は神の意思に反する」と言われて熱心に破壊し始めたのです。

この破壊運動に参加した人の中には、司祭や市議員、商人など裕福で位の高い人がおり、こうした指導層が民衆を導いて宗教革命を拡大させていくことになります。

対抗宗教改革の進展

ルター自身は修道士でしたが、彼は修道士という存在そのものを否定してみせました。

当時、カトリック教会の修道士は神に仕える身として、禁欲を貫き、妻帯してはならないし財産も持ってはならないと教えました。宗教心の厚い若きルターは、これを真面目に真摯に貫こうとします。

しかし長年の実践の結果、行動も心も、この教えを100パーセント守るのは不可能であるという結論に達しました。

自分のようにまじめに取り組んでも不可能であれば、ほかの修道士にできるわけがない。神は万能であられるのでこれが無理難題であることはわかっているはず。ということは、そもそも神は修道士のような存在を望まれていないのだ。これがルターの出した答えでした。

これに対しカトリック教会は、1545年から1563年にわたって開催されたトリエント公会議で、聖職者や修道士の持つ役割や、聖人、秘跡、聖遺物、贖宥状の聖性を再確認し、ルター派の主張が誤りであることを再確認しました。

しかし一方で、宗教改革の火をつけた贖宥状の乱発や、腐敗した聖職者が多いことも問題視されました。そのためカトリック教会は、より厳格にキリストの教えを守り、カトリック教会のルールを厳守することで聖職者とカトリック派の引き締めを図ろうとしました。

この動きが「対抗宗教改革(反宗教改革)」です。この運動の中でとくに有名なのが、フランシスコ・ザビエルが所属していたことで有名なイエズス会の活動です。

イエズス会はプロテスタントが広がりを見せる中で、カトリックの教えを維持発展させることを目的にして創設された修道会で、大学での神学の高等教育と研究、貧者救済などの社会奉仕、そして海外へのカトリック布教をその活動の柱としていました。

イエズス会はアジアやアフリカ、アメリカなど世界各地へ宣教師を派遣して原住民を「教化」し、信者に教皇や教会への絶対的な忠誠を誓わせました。それが土着権力のキリスト教徒の弾圧とそれに対する報復と支配につながっていきます。

次ページ激しくなったカトリック信者の宗教的情熱は…
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