トヨタの自動車サブスク「KINTO」大苦戦の真因 全国展開しても認知度2割、申込み1日平均6件

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トヨタは2020年5月に全国の販売店で全車種の併売化に踏み切る。各チャネルで取り扱う扱う商品に違いがなくなり、販売会社はサービス面で独自性を出すことが求められている(撮影:今井康一)

キントは普段、自動車販売会社と接点のない層へのリーチを狙うが、実際の納車やメンテナンスでは販売店が関わる。販売店のスタッフの対応次第で、トヨタブランドへの印象も変わる。キントの利用後に新車の購入につながる可能性も秘めている。

だが、販売会社の多くはキントの販売に消極的だ。東京の地場資本が運営するトヨタ販売店のスタッフは、「販売店として収益面でのメリットはほとんどない。われわれからお客さんに提案することはない」と言い切る。

「キントを顧客に勧める理由がない」

収益面でのメリットについて先述の西日本の販売会社幹部が詳しく教えてくれた。マージンは車種ごとに全国の販売店の平均利益率をベースに算出され、店頭で契約に至った顧客だと2%分、ウェブ経由の顧客は4%分が運営会社のキントに取られるという。

例えば、全国平均のプリウスの利益率は8%強だが、キントの契約が成立した場合、店頭でのマージンは6%強、ウェブ経由は4%強になるという。また、点検時の工賃も通常販売時の工賃と比較すると半額程度のイメージ」(同)。この幹部の販売会社ではキントを取り扱っているが、契約はこれまでゼロだ。「残価設定型クレジットなどで売る方が、収益性が高く、今のところキントを顧客に積極的に勧める理由が見当たらない」(同)。

2018年1月に「自動車会社からモビリティ会社への転換」を打ち出したトヨタ。その陣頭指揮を執る豊田章男社長の鳴り物入りでスタートしたのがキントだ。従来は「石橋を叩いて渡る」ともいわれる保守的な企業にあって、新サービスのローンチまで1年で漕ぎつけたのは奇跡的とも言える。

豊田社長は「何が成功するかはやってみないとわからない。とにかく始めてみて変えるべきところは変える」と話し、100年に1度と言われる自動車業界の変革期にスピード感を持って対応しようとしている。国内でのトヨタ車販売が堅調なうちに改革を進めたいというのが豊田社長の本心だ。その思いを共有する販売会社の経営陣も増えているが、トヨタから立て続けに打ち出される新たな施策を評価する販社トップの目は相当に厳しい。

キントを本格的に普及させるためには、販売会社にとっても魅力的な商品にする工夫が欠かせない。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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