医学部の疲弊が映す日本の医療制度の根本弱点 社会の変化に対応できないのにお上頼みが続く

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この閣議決定の撤回は、2008年まで待たねばなりませんでした。当時、妊婦のたらい回しが頻発し、医師不足が社会問題化していました。また、参議院で与野党が逆転し、従来型の自民党政治が継続できなくなっていました。自民党べったりだった日本医師会の政治力も低下していました。舛添要一厚労大臣(当時)は、「『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化に関する検討会」という新しい委員会をつくり、日本医師会をメンバーから外しました。この検討会が提案したのが、医学部定員の5割増です。この後、医学部定員は増員されます。

医療問題が起こると、メディアは政府の責任を追及します。その際、政府がやるべきは、十分な情報を開示し、公で議論することです。ところが、往々にして「密室」で議論され、利害関係者の都合のいいように規制が強化されます。医学部の定員の規制など、その典型です。

昨今、「お上頼みの規制強化」は一層強まっています。たとえば、日本の臨床研修は問題だらけだという批判を受け、2004年からは改正医師法に基づき、医師免許取得後の初期研修が義務化されました。それ以前も、医師の職業教育として、研修は行われていましたが、これ以降、研修病院や研修内容を厚労省が決めることになりました。

「医師と医局の集団見合いの無駄な2年間」

この制度では、研修医は数カ月毎にさまざまな診療科をローテーションします。これが2年間続きます。「総合的に診療できる」と自画自賛する関係者もいますが、このような研修は本来、医学生時代にやるべきことで、それが世界の趨勢です。この制度はモラトリアム期間を延ばすことになり、「医師と医局の集団見合いの無駄な2年間」と言う若手医師もいます。

2018年度からは初期研修を終えた医師を対象に新専門医制度が始まりました。一般社団法人日本専門医機構と厚生労働省が協力し、内科や皮膚科などの定員、および研修病院を認定します(卒後3年目以降の後期研修医は、日本専門医機構と厚生労働省が認めた「専門領域」から一つの診療科を選び、彼らが認定する病院で研修します)。

一方、地域の医師不足を改善するため、2008年度から卒業後一定期間、大学の地元で働くことを条件に別枠で医学部の定員が増員されました。これを地域枠と言います。

このような制度改革は、医療の専門家以外には一見よさげに見えますが、大きな問題を孕んでいます。それは社会構造の変化をまったく考慮していないことです。

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