40歳超の「ひきこもり」見放す社会の強烈な歪み 80代の親が50代の子を養う「8050問題」の現実

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筆者のもとには、支援の狭間に取り残されて孤立してしまった当事者や家族たちから、SOSの声が数多く寄せられる。

北海道に住む田辺さんご夫婦もそのうちの1例だ。田辺和義さん(仮名)は現在85歳、妻の文子さん(仮名)は3つ下の82歳で、息子の紀行さん(仮名)は55歳。まさに「8050問題」ドンピシャの世代だ。1964年生まれの紀行さんは、2006年の42歳の頃から、10年以上ひきこもり状態にある。

両親は、北海道に2人で暮らしているが、紀行さんは働いていた頃に購入した東京のマンションに1人で暮らしている。そのため、両親が北海道からたびたび上京して、紀行さんの状態を見守っている。

紀行さんは、北海道で生まれ育ち、地元の進学高校を卒業。その後上京し、有名私立大学に入学。一人暮らしをしながら、4年で卒業した。就職先は誰もが名前を耳にしたことがある有名な企業だった。

就職をしてからもしばらくは順風満帆というか、勤務態度もまじめで、とくに問題なく働いていた。しかし、40歳にさしかかる一歩手前の39歳頃から、ときどき仕事を休むようになる。とくに月曜日になると、身体が動かなくなり、休むことが多かった。

それでも、何とか出勤を続けるものの、40歳の頃には連続して2週間程度、欠勤することもあった。2週間の休みの後は通常どおりの仕事を再開していたようだが、それでもたびたび休むことはあった。

当時の紀行さんの仕事は、文字どおりの超過勤務。朝早くから深夜まで仕事に追われ、残業することもしばしばだった。まじめで几帳面な紀行さんは、メインの仕事以外の雑務を頼まれても断ることができず、残業時間は日に日に増えていた。また、ノルマの数字などもきつく、精神的に追い込まれていたはずだ。

「頼まれると断れない」から終わるまで仕事を続けてしまう。「困っていても助けを求められない」から1人で抱え込んでしまう──この特性は、まさに「ひきこもり」状態になる人に共通する傾向でもある。

41歳のとき、相変わらず欠勤が多かった紀行さんは、精神科を受診。「うつ病」と診断され、ひとまず休職することになった。

マンションのローンと生活費は両親が負担

こうして休職をしたものの、紀行さんは1人で暮らしていたマンションでほとんど寝たきりの状態になってしまい、身の回りのこともできなくなってしまっていた。

そこで、和義さんは文子さんとともに上京。紀行さんの生活の面倒を見ていた。その後、休職期間中ではあったものの、紀行さんは会社を退職することになった。

退職後も、数カ月程度は母親の文子さんがマンションに滞在して身の回りの世話をしていたが、その後は北海道に帰ることになった。

紀行さんはその後、ほぼひきこもり状態のまま、一人暮らしを続けている。マンションのローンと生活費は両親が支払っている。

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