京大卒33歳の彼が月収14万円生活の先に見る夢 コンビニバイト続け、「絶望や苦悩」とは無縁

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「結婚についていうなら、お金がないせいで結婚できないと嘆くことは、少なくとも僕はないです。だって、仮に付き合っている女性から『月収14万円じゃ、結婚できない』と言われたとしたら、僕だってそんな価値観の人とは一緒になれない。だったら、独りでいいです。子どもは、甥っ子と姪っ子がいるので、どうしても欲しいという気持ちはありません。病気や老後のことは、そのときになってみて考えればいいと思っています」

シンスケさんとのやり取りは、取材というより、まさに対話。気がつくと、私の終電の時刻が迫っていた。長時間にわたり、さまざまな話をする中で、この日、最も印象に残ったのは、意外なほど軟派な話題だった。

『ONE PIECE』はぜひ読むべきと力説

私は漫画もアニメも好きなほうなのだが、『ONE PIECE』は未読だと言うと、シンスケさんから、ぜひ読むべきだと力説された。シンスケさんに言わせると、この作品は、主人公からして海賊というアウトローであり、物語の根底には、格差社会や大量破壊兵器、拝金主義、絶対的な権力に対する批判がある。

“王道”すぎる印象があり、食わず嫌いだったのだが……。コミックスは100巻近くあるのか……。でも、シンスケさんがそこまで言うなら、いつか読んでみよう。

一方で、今も芸人になる夢は諦めていないというシンスケさんに、私からは、沖縄のお笑い芸人「せやろがいおじさん」の動画を勧めた。

爆笑問題の太田光はすっかりまるくなってしまったし、ウーマンラッシュアワーの村本大輔はよくも悪くも“正論”だし。それに比べて、突っ込んだ時事ネタなのに、普通に笑える、せやろがいおじさんは、シンスケさんが求める形に一番近いと思ったのだ。シンスケさんからは、その日のうちに「早速見ました。痛快なのに的確」というメールが届いた。

有名国立大学を卒業しながら、レールから外れた道を歩むことは、言うほど容易ではない。一方で、年収200万円に満たないコンビニバイトだから見える光景や、語れる言葉もあるはずだ。“勝ち組”にならないことを選んだシンスケさんへのエールとしたい。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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