京大卒33歳の彼が月収14万円生活の先に見る夢 コンビニバイト続け、「絶望や苦悩」とは無縁

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シンスケさん:でも、貧困記事自体にアレルギーを持つ人もいます。ホリエモンや橋下徹といった自己責任論者からは、「努力もしないやつらが、またわがまま言ってる」と一蹴されて終わりだと思うんです。

筆者:確かにそうですね。自分とは違う考えの人にも届く言葉って何だろうと、考えることはあります。

シンスケさん:政府や行政はどうすべきなのかということまで書くべきなのでは?

筆者:具体的な政策を提案すべきだという意味なら、それは記者の仕事ではありません。私は現状をルポし、問題も指摘しますが、政策をつくるのは政治家の仕事です。

以前、「最低賃金を1500円に」と訴える若者たちのデモを紹介したことはありますよ。これに対しては「デモで社会がよくなると思っている記者は世間知らず」と批判されましたけど。私は、デモですぐに社会がよくなるなんて思ってませんが、こういう批判をする人は、おかしいことをおかしいと、誰も言わないような社会のほうがいいと思ってるんですかね……。ところで、シンスケさんは連載を批判したくて取材を受けたのですか?

シンスケさん:違いますよ! 人の痛みがわからないコメントがあまりに多いので、むかついたんです。貧しくても、絶望や苦悩とは無縁の人間もいることを知ってほしかった。

筆者:なるほど。でも、シンスケさんのような、貧しくても困っていないという人ばかりを取り上げたら、貧困問題や格差など存在しないという考えの人は、きっと喜びますね。

シンスケさん:確かに……。貧困で苦しんでいる人が大勢いるのは事実です。僕が特殊なんだということは、ちゃんと書いてください。

予備校の教師から大きな影響を受けた

取材する側と、される側が入れ替わったようなやり取りは、1時間近く続いただろうか。

シンスケさんによると、子どもの頃から、無意味な校則や高圧的な教師に反抗するようなところがあった。この頃見たドラマの中で、木村拓哉演じる型破りな検事が活躍する「HERO」や、警察組織内の矛盾をリアルに描いた「踊る大捜査線」に夢中になったのも、根底にある“反権力”の価値観に子どもなりに共感したからではないか、という。

また、浪人生時代に出会った予備校の教師からも大きな影響を受けた。受験向けの詰め込み教育とは一線を画した授業をする現代国語の教師で、「お前らには選択肢がある。1つは、このまま勝ち組としての人生を送る。もう1つは、世の中にある格差をなくす側の人間として生きることだ」と言われたことを、今も鮮明に覚えているという。

当時は、郵政民営化や派遣労働の規制緩和などが急速に進められた小泉政権下。「格差社会」は流行語にもなった。予備校教師の言葉を真剣に受け止めたシンスケさんは、一時は大学進学自体をやめようかと悩んだが、最後は「学歴はあっても悪くはない」と考えた。京都大学では、憲法9条を守ろうと訴える、学生らによる自治会の集まりに1度だけ足を運んだものの、なじむことができなかったという。

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