京大卒33歳の彼が月収14万円生活の先に見る夢 コンビニバイト続け、「絶望や苦悩」とは無縁

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「(自治会には)人間として魅力的だと思える人がいなかったんです。社会をよくしようと訴えるとき、正義や正論だけを振りかざしても、誰も耳を傾けてくれない。同じ訴えるにしても、明るさや笑いは必須だと思うんです。それを仕事としてできるとしたら、何だろうと考えて。将来はラジオパーソナリティーか、お笑い芸人になろうと思ったんです」

その後、別のサークルで知り合った友人や先輩らと、実際にお笑いのコンビを組み、地域のイベントなどで披露。卒業前、両親に芸人を目指すと告げたときは、当然ながら猛反対された。自身のライブに招待するなどして何とか説得し、中堅の芸能事務所が運営する養成所に通ったが、相方探しに苦労したこともあり、いまだに芽は出ていない。

実力だけでなく、運も必要な芸能の世界で、シンスケさんが直面したのは紛れもない挫折であった。ただ、「勝ち組といわれる場所にいたくなかった」と語るシンスケさんには、焦りや後悔といった感情は持ちようがない。ここ数年は、コンビニのアルバイトのシフトを増やす一方で、哲学、思想関係の本を読んでいるという。

古代ギリシャの哲学者プラトンが、師・ソクラテスの法廷での主張を対話形式でまとめた『ソクラテスの弁明』や、つまるところ自殺では目的は達成されないとしたショーペンハウエルの『自殺について』をはじめ、ニーチェやセネカ、荘子などあらゆる本を読みあさった。超絶難解な書籍ばかりだが、読書は至福の時であり、印象に残った言葉や、肝となるロジックを大学ノートにまとめている。本を読み続ける理由を、シンスケさんは次のように説明する。

「権力者」をいつか論破したい

「僕は、人の痛みが想像できない、自分さえよければいいと思っている“権力者”に腹が立つんです。権力者とは、安倍政権でもあり、政治家でもあり、世の中の勝ち組といわれている人たちでもあります。僕は、いつか彼らをボロックソに論破したいんです。

最近、ホリエモンが、10年以上働いて手取り14万円という会社員が『日本終わってる』と嘆いたのに対し、『日本じゃなくて、お前が終わってるんだよ』と批判しましたよね。お金や地位や名誉を得ることはそんなに大切なのか、貧困は悪いことなのか――。僕は彼らにそう問いたい。そのためには物事を知り、自分の頭で考え抜く必要があります」

いつか社会に影響を与える人間になりたい――。そう話すシンスケさんは、自らの主張をまとめた小説も書いている。『ソクラテスの弁明』と同じ対話篇で、最近、それが400字詰め原稿用紙2000枚分になったので、ある出版社に送ったところ、書籍化は難しいとの旨が書かれた手紙とともに返却された。門前払いをされたわけだが、「論評も批判もなく、そのまま返されました」と話す口調は、あっけらかんとしたものだ。

この対話篇を執筆するため、いったん増やしたアルバイトのシフトを減らした。現在は、週4日勤務で、月収約14万円。さすがに、将来が不安にならないかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

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