「アメリカ衰退論」が的を射ていない理由--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授


 米国国家情報会議は「米国の支配力は2025年までに“大幅に低下”し、米国が優位性を持つ軍事力でも重要性がしだいに低下する」と予測している。ロシアのメドベージェフ大統領は「08年の金融危機は、米国の世界的な指導力が終焉に近づきつつある兆候である」と指摘している。カナダの野党・自由党のイグナティエフ党首は「米国のパワーは最盛期を過ぎた」と語っている。そうした予想が正しいかどうか、どうすればわかるのだろうか。

生物の衰退の比喩を使うのは誤解を招く。国家は寿命が決まっている人間とは違う。たとえば18世紀末にイギリスが植民地を失ったとき、当時の有名な歴史家ホーレス・ウォルポールは、イギリスは“デンマークやサルディニアのような小国”になってしまったと嘆いた。彼は、産業革命がイギリスにさらに強大な支配力を与えることになるとは予想できなかったのだ。

ローマは頂点に達した後も3世紀以上にわたって支配力を維持した。そのときでさえローマは他の国に屈することはなかったのに、数多くの野蛮な部族との戦いで負った無数の傷のために滅亡したのである。中国やインド、ブラジルが数十年後には米国を超えるというのが一般的な予測だが、偉大な国家の間での権力の移行は、現代の野蛮な部族(テロ集団のように国家を持たない組織)の台頭と比べれば、さほど問題ではない。サイバーの危険性をはらんだ情報社会では、権力の分散は権力の移行よりもはるかに大きな脅威となるかもしれない。

21世紀の国際的な情報化時代にパワーを行使するということは何を意味するのだろうか。パワーを作り出す源泉は何だろうか。

16世紀には植民地と金がスペインに優位性を与えた。17世紀のオランダは貿易と金融の恩恵を得た。18世紀のフランスは大きな人口と強い軍隊でパワーを得た。19世紀のイギリスのパワーの源泉は産業の優位性と海軍力にあった。常識的に言えば、最大の軍事力を持った国がパワーを手に入れる。しかし、情報時代においてパワーを持つ国は、人々の支持を得る説得力を持つ国家(あるいは非国家的な組織)かもしれない。

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