日本人は「はしか流行」の怖さをわかってない 予防接種1回のみだと免疫には不安が残る

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その典型が2008年の新型インフル流行だ。ワクチン不足が問題になったのをご記憶の方々も多いだろう。わが国の国産ワクチン供給量は1700万人分にとどまった。英米仏の政府が、全国民分を確保しようとしてきたのとは対照的だった。

当時の舛添要一・厚生労働大臣が主導し、海外からワクチンを輸入することになったが、厚労省は積極的にワクチンを輸入する気はなく、「輸入ワクチンは危険」というネガティブキャンペーンを繰り返した。

パブリックコメント募集時には「国内では使用経験のないアジュバント(免疫補助剤)を用いている」と不安をあおった。アジュバントは世界各地で汎用されており、大きな問題は起こしていない。厚労省はこのことは十分に説明しなかった。

このときは新型インフルエンザの流行が収束し、大きな問題とはならなかったが、その後も厚労省は国産ワクチンにこだわり続けた。

麻疹の免疫に自信がない人はワクチン接種を

2012年7月、厚労省はワクチン不足を防ぐため、地域で融通し合う体制作りを求める通知を都道府県や医師会に出した。この中で医療機関は必要最小限度の発注に努めること、都道府県は卸業者や医療機関の在庫状況がわかる仕組みを作ることを求めた。もし、ワクチンを買い占めて、後に余ったことが発覚した医療機関は名前を公開するとしたくらいだ。

ただし、ワクチンの絶対数が不足している以上、医療機関で融通し合っても必ずどこかで不足するため、この対策も非合理的と言える。

厚労省が国内ワクチンメーカーを守るのにきゅうきゅうとしている間に、世界のワクチン開発をめぐる状況は変わった。サノフィ・アベンティス(仏)、グラクソ・スミスクライン(英)、ノバルティスファーマ(スイス)などのメガファーマがしのぎを削るようになった。1990年代、ドル箱だった生活習慣病薬の特許が切れ、ワクチンを次の成長分野と見なしたためだ。

市場から巨額の開発資金を調達できるメガファーマが参入したことで、ワクチン開発は一変した。例えば、従来の鶏卵を用いた方法から、細胞を用いて短期間に大量生産できる方法に移行しつつある。このあたりの変化が国民に正確に伝わっていない。

グローバル化が進展すれば、ますます感染症のリスクは高まる。国にやる気がないのなら、自分の身は自分で守るしかない。私は、厚労省が推奨しようがしまいが、麻疹の免疫に自信がない人はワクチンを接種することをお勧めしたい。その場合、費用は自費となるが、通常は1万円程度。幸い、MRワクチンは、すでに免疫がある人に接種しても問題は生じない。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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