日本人は「はしか流行」の怖さをわかってない 予防接種1回のみだと免疫には不安が残る

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流行を繰り返す理由は予防接種の不十分な状況が指摘される。麻疹を予防するにはワクチンを打つしかない。ところが、わが国にはワクチンを打っていない人が大勢いる。

麻疹の予防接種は2回接種が推奨されている。1回の接種で5%の人に免疫ができないし、免疫ができても、1回の接種だけなら年齢を重ねるうちに免疫が低下してしまう人がいるからだ。

現在、わが国では麻疹の予防接種は、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の形で、1歳代と小学校入学の前年に合計2回接種する。

ところが、この2回打ちが始まったのは2006年だ。子どもの頃に麻疹にかかった人が多い50歳以上の世代と、2回のワクチン接種を受けている若年世代を除く若年・中年世代は予防接種を1回しか受けておらず、免疫に不安がある。最近の流行は、この世代を中心に繰り返している。

まずやるべきは、この世代への追加接種だ。国立感染症研究所の2016年の調査では、7歳児のMRワクチンの2回接種率は83%にすぎない。

【2019年11月14日13時3分追記】文中の一部表現を削除いたしました。

麻疹ワクチンの年間生産量290万本は多いか少ないか

厚労省は2007年の流行を受け、翌年4月から5年間に限定し、中学1年生および高校3年生相当年齢の者に定期接種を実施した。しかしながら、それ以前の世代は放置したままだ。厚労省は、そもそも麻疹対策に本気で取り組むつもりがないようにも映る。

なぜ、厚労省が、この程度でお茶を濁すかと言えば、ワクチンの生産が間に合わないからだ。

わが国の麻疹ワクチンの生産量は、麻疹・風疹(MR)ワクチンとして年間に約290万本だ。200万本は小児の定期接種向けなので、成人に利用できるのは90万本となる。さらに成人を対象とした追加接種(第5期接種)として2019年度は70万人を見込んでいる。残るのは約20万本にすぎない。

2回接種を受けておらず、免疫に不安のある日本人の数は約570万人にも上る。単純に計算すれば、これらの人に行き渡るのは今から28年間もかかる。

ワクチンが必要で、国内で製造できなければ、海外から買えばいい。ワクチンを製造している企業は世界中にある。

ところが、厚労省はワクチンの「輸入」をかたくなに拒んできた。わが国でワクチン開発・販売を主導してきたのは、BIKEN財団、化学及血清療法研究所(化血研)、北里研究所などの非営利機関だ。

ワクチンは「なまもの」だ。MRワクチンの場合、病原性をなくした生きたウイルスから作る。大量生産は難しい。有効期限は1年程度と短く、在庫管理は容易でない。独自の技術を持つ中小のメーカーが細々と作ってきた。

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