ギリシャが危機でも医療の質を維持できたわけ 財政危機から10年、その日本財政への教訓

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筆者は、10月初旬にギリシャへ赴き、財政危機後、ギリシャの医療にどんな影響があったのかを調査した。

世界各国で医療には、税金が大なり小なり投じられている。だから、財政危機と聞けば、高価な医薬品を使えず、治る病気も治せなくなったり、ベッド不足で入院待ちをする患者が列をなすなど、医療への税金の投入が減って大きな影響が及ぶと想像しがちだ。

ギリシャの入院医療は過半を公立病院が担っており、緊縮財政策は公立病院を直撃した。公立病院に勤務する医師や職員は公務員で、緊縮財政策によって給与が引き下げられたうえ、公務員数は5人の退職者に対して1人しか新規採用をしてはいけないというルールが適用されたため、医師が減ったという。そのため、ギリシャ人の医師の多くが、財政危機後に他の欧州諸国に渡った。

財政危機が離島の医療体制を直撃

とくに、日本と似て離島が多いギリシャでは、離島の医療を維持するのに苦慮している。医薬品に支払われる金額を抑えたため、製薬会社はギリシャへの医薬品供給を抑えているという。また、公立病院も財政的な制約が厳しくなり、入院患者はベッドのシーツを自宅から持ってくるというエピソードもあった。

しかし、想像に反して、ギリシャの医療は財政危機後に、日本の先を行く改革が行われ、医療の質の低下を補う質の向上が図られていた。きっかけはともかく、財政危機を機に、これまでギリシャでできなかった医療の質を向上させる改革が断行されたのだ。

まず、日本と同様、財政危機前のギリシャでも、「薬を多く出す医者がいい医者」と思う国民が多かった。薬を多く出す医師に対する有効な歯止めもなかった。さらに、製薬会社も自社の薬を多く処方してもらうよう、医師に働きかけることが横行していた。

ところが、財政危機後は、医師が1カ月のうちに処方できる薬の量に制限をかけた。その結果、医師が不必要に薬を処方することが抑えられたという。ある患者に過剰に薬を処方すると、真に必要な別の患者に薬を処方できなくなってしまうからだ。また、電子処方箋の仕組みを整え、国民のID番号(日本のマイナンバー)で名寄せをし、どの患者にどんな薬をどれだけ処方したかを確認できるようにした。同時に、医師の処方を行政機関が監視し、過剰投薬をチェックできるようになった。

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