副作用の少ないがん治療薬をウイルスで創る いま注目のバイオ創薬ベンチャー社長に聞く

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2010年にブリストルマイヤーズにライセンスアウトでき、現在は第2相後期臨床試験の投与が終了し、データの収集や解析を行っています。今後5年以内には市場で販売されてほしいと考えています。

がん細胞を発光させる

――検査薬でも、ウイルスを使ったテロメスキャンを開発されています。

がん細胞増殖のキーファクターであるテロメラーゼを検出する検査薬です。下村脩教授が2008年にノーベル賞を受賞したオワンクラゲの蛍光物質GFPと、がん細胞でのみスイッチを入れるためにテロメラーゼ遺伝子のプロモーター部分をアデノウイルス遺伝子に組み込んで投与すると、正常細胞では変化しませんが、がん細胞を特異的に発光させるのです。

発光するがん細胞

がんは手術で切除したあとも転移の可能性があります。取り残された目に見えない微小ながん組織から血液中にがん細胞が遊離するので、患部を切除しても数年経つと思いもよらないところに転移して現れます。しかし、従来の血液マーカーでは、がんが残っているかどうかは30%程度しか見つけられません。

テロメスキャンを使うことで、試験管1本の血液、細胞にして約10億個のなかから1個単位のがん細胞を選りわけ、悪性度を見極めることができます。がん細胞が5個以上あれば、遺伝子検査によって効果のある治療薬を特定することも可能です。

――次世代型も開発途上ですね。

困ったことに、第1世代のテロメスキャンでは、ごく一部ですが正常細胞で擬陽性の反応が出ることがあるのです。それをなくすために、大阪大学の水口裕之教授が開発した、より特異的にがん細胞だけを認識できるOBP-1101(テロメスキャンF35)へウイルスを変更しました。

これによって、擬陽性反応をほぼ抑制できるようになりました。肺がんや乳がんなどの予後を中心としてがん検出はこちらに集中し、第1世代はリューマチなど炎症性の疾患に方向転換しています。

――それにしても検出作業が大変そうです。

現在は顕微鏡で見ていくという人手に頼る方法で、1件あたり2~3時間を要します。今後は光学系の技術を持つメーカーと完全に自動化した検出装置を開発していきたいと考えています。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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