副作用の少ないがん治療薬をウイルスで創る いま注目のバイオ創薬ベンチャー社長に聞く

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経営について全責任を負う

――大学発ベンチャーは難しいと言います。

私たちは1つの約束をしました。経営者である私は先生方のサイエンスを全面的に信頼する。先生方には、私の経営を信頼していただく。大学ベンチャーでうまくいかない例をいくつか見聞きして、科学者が経営にコミットするとうまくいかないことが多いことを知っていたからです。

科学者の方針で経営のプライオリティ(優先順位)を変えてしまっては、一貫した経営方針が保てない。幸いにも先生方が約束を守ってくださり、経営に関しては私が全責任を負っています。

――オンコリスの主要なパイプラインにはHIV治療薬OBP-601もありますが、ウイルス薬ではないですね。

HIV治療薬は化合物です。ウイルスを用いた抗がん剤開発だけにこだわる方法もありますが、私たちはそうはしませんでした。それは、私たちの腫瘍溶解抗がん剤テロメライシンの事業化までに長い時間がかかるからです。

うらた・やすお●1955年生まれ。京都薬科大学大学院修士課程修了後、83年小野薬品工業入社。94年日本たばこ産業医薬総合研究所入社。研究開発企画部長、医薬事業部調査役を経て2004年3月オンコリスバイオファーマを設立し現職

最初のファイナンスで調達した資金はおそらく数年で尽きる。もっと早く資金回収ができるパイプラインが必要です。投資してくれたベンチャーキャピタルからも、複数のパイプラインを持つようにと言われました。そこで、注目したのがHIV感染症治療薬です。これもいわばウイルス関連プロジェクトです。

前職時代に米国のベンチャーが開発したHIVのプロジェクトに参画したことがあり、土地勘がありました。がん治療薬は効果がわかるまでに半年~1年以上と長い時間がかかるが、HIV治療薬では7~10日でその効果がわかる。一時的に優先してもやるべきだと判断しました。

ちょうど鹿児島大学の馬場昌範教授とイェール大学の共同研究の報に接し、すぐに鹿児島に飛んだのです。その後、イェール大学とのライセンス契約を進め、苦労の末に契約に漕ぎ着けました。

――抗エイズ薬はすでに20種類以上もあると言われていますが、なぜHIV薬を選んだのですか。

HIV患者は長期的に見ても増え続けています。薬は長く飲まねばならず、飲んでいるうちに耐性ウイルスが出てきます。OBP-601はこれまでに報告されてきたすべての耐性ウイルスに効き、1日1回投与が可能、副作用も軽減できるなど患者にとってのメリットも大きい。

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