副作用の少ないがん治療薬をウイルスで創る いま注目のバイオ創薬ベンチャー社長に聞く

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――なぜがん治療にウイルスを使おうと思われたのですか。

かつてのがん治療は抗がん剤が主流でしたが、がん細胞に働きかけるだけでなく正常細胞にも同じように働くため、「がん」で苦しんでいるのか「抗がん剤」で苦しんでいるのか、わからないような状況でした。1990年代のことです。

何かいい方法がないかといろいろ探っているうちに遺伝子治療と出合ったのです。遺伝子が正常に働かないときに、正常な遺伝子を入れてやる。がんも遺伝子異常だから、正常化する遺伝子を入れると治るのです。問題はどうやって正常な遺伝子を入れるか。そこで出合ったのが、ウイルスを使う方法です。

藤原教授との縁

――どのような出合いだったのですか。

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ウイルスによるがん細胞溶解のメカニズム

テキサス大学で研究されていた藤原俊義教授が帰国し、日本初のがん遺伝子治療薬を目指して岡山大学で研究を続けていると聞きました。

それはアデノウイルスという扁桃腺炎を引き起こすウイルス。この直径70ナノメートルほどのウイルスに含まれている遺伝子を改変して、がん細胞に感染させると、アデノウイルスががん細胞の中でだけ増殖し、最後にはがん細胞を溶解してしまう。がん細胞にだけ特異的に効き、正常細胞では働かない。風邪と同様、せいぜい少し熱が出る程度で、ほとんど副作用がない。

また、これまでの抗がん剤の有効率は10~20%と低いが、強い副作用は100%出るという状況でした。それ以前にもヘルペスウイルスやREOウイルスなどのウイルス治療を研究しているグループがあり、共同開発を模索しましたが、当時勤務していたJTががん治療薬研究からの撤退を決めたため、共同開発に持ち込むことができなかった経緯があります。

JTの方針変更はあったが、自分としてはどうしても新しい副作用の少ないがん治療薬を作りたい。そこで岡山大学の藤原先生からの強い要請があり、一緒にやることになったのです。研究グループの先生方とともに資金を出し合い、製薬会社で医薬品の開発企画経験のある私が経営を引き受けることになりました。

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