道路や橋など社会資本の老朽化は大きな問題だ 災害に強い設備にするには更新費用も莫大に

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新しい社会資本を作れば子供や孫の世代も利用できる資産になるが、他方でそれを維持・更新する費用が負担として生じてくる。したがって、社会資本を後世代にできるだけ多く残せばよいというわけではない。

人口が減少していくわが国では、設備の多くで利用者が大きく減少することが予想されるうえ、社会資本整備に割ける資金を大きく伸ばすことも難しくなる。今後老朽化した社会資本ストックが大量に更新を迫られた時に、そのすべて維持したうえで、さらに新しい社会資本の整備を行うことは無理だ。新規に整備を行うためには、どこかで更新費用の捻出できない資産が生じてしまう。

社会資本の維持更新には取捨選択も必要になる

既存の施設を更新するためには、今までの機能を維持しながら作り替えを行うために、追加的な費用も必要になる。例えば、最初に紹介した首都高速道路の例では、海面近くにある道路をもっと高い位置に建設し直すことが計画されている箇所があるが、工事中には迂回路が用意されることになっている。

気候変動による大規模災害への対応など、時代の変化に応じた高性能の設備への切り替えも必要だ。更新工事では最初に建設した時に比べてはるかに費用がかさむことが避けられない。

今後、限られた資金の範囲で新たに必要になる社会資本の整備や既存の施設の維持・更新を行っていくためには、既存の社会資本を、維持すべきもの、維持を断念するものにはっきり区別することが不可欠だ。明確な決断を下さずに老朽化した設備を使い続けると、大きな事故につながる恐れもある。

すべての社会インフラを維持することは困難で、その結果、住み慣れた土地を離れなくてはならない人たちが出てしまうことは辛いことではあるが、一方で、なるべく多くの人が災害や事故から救われることが重要である。英国の思想家トーマス・カーライルは経済学を陰鬱な科学(dismal science)と呼んだ。残念ながら、それは真実で、経済学はわれわれに苦渋の決断を迫ることも多い。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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