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外資系IT企業のマーケティング部で働いていた金田博之氏は、29歳のときに副社長補佐、30歳のときに部長に就任し35歳で本部長に。それまでの状況とは一変し、経営レベルの話に触れる機会が増えた。そのすべてを自分の糧にすべく、ノートに書き留めることにした。日々の気づきをいかにして次の行動に着実につなげていくか。この蓄積がビジネスパーソンを大きく飛躍させる。
ビジネスパーソンとして“おいしい話”を2つのノートに記入
────金田さんが手書きのノートをつけ始めたきっかけは何ですか。
金田 外資系大手IT企業のマーケティング部で働いていたのですが、29歳のときに副社長補佐という立場になったのがきっかけです。それまで聞いたことのないような生の経営の話や、難易度の高い課題に触れる機会が非常に増えた。そういう〝おいしい話〟を取りこぼしたくなくて書き留めたのが、最初の動機です。
───具体的にどういうふうにノートに書くのですか。
金田 まずA5サイズのバインダー式ノートを用意し、そこにメモ用の普通のノートをはさんでおきます。メモ用のノートには、それこそ何でもメモします。会議や商談の最中に汚い字で走り書きする。そこから大事なものだけをバインダー本体のルーズリーフに転記していく。
転記する内容は、自分の行動に結びつけるべき内容です。それを1日1行、必ず書く。たとえば、ここに「トップに怒られ慣れておく」と書いてありますが、トップに怒られて落ち込んだときに書いたものです。よく考えたら、上に立つことはそれだけトップにプレッシャーをかけられ、怒られる機会が増えるわけです。怒られ慣れれば経験値が高くなる。
ただし、怒られっぱなしではもちろんいけないので、次回どう行動するかを右矢印を引いて書いておく。「必ずバックアップを打つ」と。これはバックアップを忘れていて怒られたんですね。
日付も6桁で書いておきます。「100805」とありますから、2010年8月5日です。さらに、書いたときの感情も書いておくと、読み返したときにその 状況をいい意味で感情的によみがえらせることができる。それがすごく重要です。「悔しい」と一言書いたり、これは絶対に次につなげてやるぞと思いながら矢 印を太く書いたりすると、実行力が高まります。
───「1日1行」の理由は?
金田 長い文章だと書くのがめんどうで続きませんし、振り返るのも大変だからです。であれば、1日に得た気づきのなかでもっとも重要なものをしぼり切って、次の行動につながるものを蓄積していくほうがいい。
これを毎日、繰り返すことで、あらゆるシーンで自分の成長につながる材料を逃さないという意識づけにもなります。
行動を実践してみて、成功パターン集をつくる
───蓄積したあとはどうするのですか。
金田 矢印を引いて書いた次の行動を、実際に実践してみます。それでうまくいったものを別のページにどんどん転記し直していく。いってみれば、これは成功体験をパターン化したものです。すべてにおいて成功体験を再現していくことが重要で、行動した結果、成功したものを蓄積していくことが成果を出すためには確実です。私は「会議の成功パターン集」や「商談の成功パターン集」など、テーマごとにまとめています。これを「虎の巻」と呼んでいる。「1日1行」と「虎の巻」、この2つが私のノート術の重要な骨格です。
ノート全体では、大きく5つの項目でページ分けをしていて、それが私の大きな目標になっています。1つ目は「経営者としての力をつける」。2つ目は「リーダーシップ力を高める」。3つ目は「グローバルに通用する人材になる」。4つ目は「仕事だけでなく、人生そのものを楽しむ」。5つ目は「健康」。この項目ごとにノートを蓄積して、保存用のファイルに管理しています。
ルーズリーフにこだわるのは、さしかえが利くからです。メモ用のノートはどんどん捨てていきますが、蓄積していくほうは1日1行なので数年分でも5分、10分でザーッと振り返ることができます。
ノートのおかげで残業なし、
毎週水曜日は妻とデート
───4つ目の「人生そのものを楽しむ」は、がんばるビジネスパーソンがつい忘れがちなことですね。
金田 私は仕事がかなりハードで、1日に会議が10件あったり、1日に3件出張があって飛行機に2回乗ることもあります。でも、これまで残業をしたことがないんですよ。それもノートのおかげです。
家族と旅行に出かけたらオヤジがすごく喜んでくれた。妻と平日に外でデートしたらうれしそうだった。そういう経験から、「家族との時間をもっと大切にしていこう」と1行書きました。では、次にどう行動するかということで、「プライベートの予定を先におさえる」ようにしました。毎週、水曜日は妻と外出することにしています。週の真ん中に1回遊びを入れると、あたかも金曜日が2回あるような感覚になり、メリハリがついてモチベーションも上がりますよ。
───振り返るときや、その頻度は決めていますか。
金田 ほぼ毎日ですが、とくに月曜日の朝は先週の行動全体を振り返って、今週の行動計画に結びつけています。次の行動を実際にいつやるか。よくToDoリストを書き出す人がいますが、私は行動力を高めるコツは、ToDoリストとスケジュールを分けないことだと考えています。行動計画はすべてスケジュールの中にどんどん埋め込んでいく。
そのスケジュール管理はパソコンでしています。スケジュールは流動的なので、コピー&ペーストが簡単なデジタルのほうが管理しやすいですね。
人生初の転職もノートで即決!「いまの部署でできることリスト」と「やり切るリスト」を振り返った
───これまでノートを振り返って、人生が大きく変わったという経験はありますか。
金田 じつは15年間お世話になった外資大手IT企業をこの1月に退職して、某日系企業に転職するのですが、その決断を迷いなく、早くすることができました。
ノートに「いまの部署でできることリスト」と、それをいつまでに全部消化するかという「やり切るリスト」の2つをコツコツまとめていたのです。これを書き出しておくと、普段の仕事に対しても目線が上がります。
たとえば、長年たずさわったチャネル営業の仕事は非常に過酷で、しかし考えてみると、3万社のお客さんに会えるのは、この組織で私にしか経験できないこと。こうしたリストを全部消化したら次のキャリアを考えようと思っていました。
また、ノートに書き出すと、自分に足りないものや仕事の履歴も客観的に見えてきます。振り返ると、自分のなかでやり切った感が正直、あった。そこへ次の転職先を含む有名日系企業2社と、有名外資系企業3社からヘッドハンティングされました。
これだけ選択肢が多いと普通は迷うでしょう。転職の面接期間は長くて2~3カ月です。その間に私は15年間の外資での経験をノートで振り返り、外資系とIT系はこれまでやってきた仕事と近すぎると判断して、選択肢から外しました。人生の後半戦は、自分の成長をより広げられる会社で働きたい。それで日系企業への転職をすんなり決められたのです。
もしカンで決めていたら判断を誤りかねません。蓄積してきたノートが生きたと実感しました。
───最後に、若いビジネスパーソンに向けてメッセージをお願いします。
金田 若い人はいきなり大きな仕事は任されないし、任されてもできないでしょう。それなら、与えられた環境をどうやって生かすかが重要になってきます。じつは現実のなかに、たくさんの成長材料があります。私はこれまで若い社員を大勢見てきましたが、成長する人間とそうでない人間の差は、日々の仕事からいかに成果を安定的に再現できるかを工夫し続けているかどうかだとわかりました。そのためにノートは非常に有効な手段だと断言できます。
さらに、成功者と成功し切れない人との違いは、有言実行型かどうか。私がノートでこだわっているのは、行動の部分です。せっかくいいことを書いても、行動せずに終わってしまう人が大半なのです。1日1行書いて、それを必ず実行していく。その積み重ねによって数年で大きな差がつきます。ぜひ手書きのノートを活用していってほしいですね。