島津製作所が「大麻合法化」で注目されるワケ 北米を中心に、ある分析装置の需要が広がる

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大麻の成分分析ではこれまで扱ってきた薬や食品の分析を行う分析装置が応用された。物質を成分ごとに分離させるクロマトグラフィーの技術に強みがあり、同社が手がける液体クロマトグラフなどの分析装置は「似ている成分でも細かく分離させて分析することができる」(製薬会社幹部)と高い評価を受ける。

島津製作所の分析装置(写真:島津製作所)

北米の製造子会社でイノベーションセンター長を務める西村雅之博士は「精度の悪い分析機では、本来医療向けに有効成分ではない成分までもが有効成分に混じって計測される恐れがある」と指摘する。誤った成分分析に基づくと本来使用が禁止されるべき大麻が出回ったり、有効成分が含まれていないのに医療現場で使用されたりする可能性がある。

こうした流れの中、島津製作所は2017年に大麻の分析に特化した分析機を北米で発売。多くの分析機メーカーが機械だけを販売したのに対し、島津製作所は「分析機だけではなく、分析に必要な研究室の設備や試薬など消耗品などの使い方を含めてトータルサポートして正確な分析ができるようアドバイスした」(西村氏)。

また、分析機には大麻の分析に特化したソフトウェアも開発して搭載し、分析を実施した人物の記録が残るなどセキュリティー面も強化している。

「大麻合法化に群がる企業とは違う」と評価も

合法化で利用が広がる大麻だが、アメリカでも多くの州では医療目的での合法化が中心で、嗜好品としての合法化は4分の1程度。日本では大麻取締法によって、大麻の所持、栽培、譲渡と大麻を所持することができる者の目的外使用が禁止されている。さらにこの法律上の規定が、日本人の場合には日本国外でも適用されることがあり、帰国後に取り締まりに遭う可能性もある。

【2019年5月20日16時46分追記】初出時の記事では「大麻取締法によって、大麻の所持、使用、栽培が禁止されている」としましたが、表記のように修正いたします。

これらの状況を受け、大麻ビジネスに邁進する飲料やたばこ企業には環境や社会、企業統治を重視するESG投資の観点で一部の投資家から厳しい目が向けられている。ある外資系機関投資家のアナリストは「一般的に海外で大麻関連ビジネスに関わっている企業は法的に規制されるリスクがあり、長期的な投資対象になりづらい」と話す。

その一方で、「島津製作所の場合は大麻の広がりを適正に管理するために重要な取り組みと言える。合法化に群がって大麻製品を投入して、大麻を拡散させようとしている企業と違うことは多くの投資家も理解しているだろう」(前出のアナリスト)。

欧州でも大麻合法化の流れが出つつあり、「欧州からの要望も出ている」(同社関係者)という。世界で拡大する大麻という“敏感な領域”に日本企業はどう関わるべきなのか。島津製作所の事例が1つの指針となりそうだ。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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