池上彰×佐藤優「2020年教育改革で起きること」 アクティブ・ラーニングはエリート教育か?

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池上:それにみんなついてくるのですか?

佐藤:ついてきます。これは、希望者の中でも残った学生たち相手の、特別授業なのです。現在は6人の学生を相手に教えています。単位は出しません。授業も神学部の演習室を借りてはいるけれど、土曜日のほかの学生のいないときに、目立たないように開講しています。こういうことをやろうとすると、いろいろ批判も出てくるわけです。「なぜ特定の学生を優遇するのだ」とか、「佐藤はエリート教育をやっているんじゃないか」とか。

池上:なるほど(笑)。

佐藤:でも、「それで悪いか」と開き直るしかない、というのが私の本音です。とにかく魚は頭から腐っていくから、しっかりとした頭をつくらないと駄目だと思うのですよ。学びの機会の平等は保証するけれども、その先に関しては本人次第。自ら手を挙げ、あえて言えば能力があってついてこられた人間を、心血を注いで育てたいのです。あくまでも、大学レベルでの話なのですが。

池上:一度、佐藤先生の白熱授業をのぞいてみたい。

「エリート」養成は悪なのか

佐藤:誤解を恐れずに言えば、アクティブ・ラーニングは、基本的にエリート教育だと思うのです。自ら考えをまとめて説得力のある話をするというのは、指導的な立場になる人たちにとって必要なスキルでしょう。

話に出たアメリカのハイレベルの大学がそうですよね。水準の高い授業で学生をふるいにかけ、残った人間たちをエリートに養成するという方針が明確です。

池上:出来が悪ければ、どんどん落第させますからね。

佐藤:アメリカでは、それで文句が出ることはありません。競争社会で強い者が勝ち残っていくのは当然だ、という社会の合意がありますから。

ただ、自分で「エリート教育」をやっていながら思うのだけれど、このアクティブ・ラーニングについていけない人たちがどうなっていくのかというのは、深刻な話だという気もするのです。詰めこみ教育同様、新しい学び方の現場でも「落ちこぼれ」は生まれるはず。面倒なことに、今度はそこにAIが絡んでくるわけです。

池上:前におっしゃった、AIリテラシーを備えた人間のところに情報やお金が集まっていく、という問題ですね。選ばれた人たちは、アクティブ・ラーニングによってそういう能力を獲得していけるけれども、そこからこぼれ落ちると、以前にも増して悲惨なことになりかねない。

佐藤:仮に、一部の人間が世の中の大半の価値を生み出すような社会になったらどうなるのか? 例えば、追いついていけない人たちに富を再配分するような仕組みができるのかどうか、そのあたりが現状ではまったく見えません。

今言えるとしたら、養成すべきは「真のエリート」であって、単に「エリート意識」に凝り固まったような人間ではない、ということですね。セクハラや買春を繰り返して恥じない「指導者」は、エリートと呼んではいけないのです。

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