悪ふざけバイトへの法的措置は妥当な策なのか くら寿司など相次ぐ「不適切動画」顰蹙の代償

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なお、この特別損害については、2017年12月20日に改正されており、「当事者がその事情を予見すべきであったときは」というように文言が変わっている。改正法は2020年4月1日に施行される。

当該従業員が、このような不適切動画を撮影・投稿する時点で、株価の下落まで予見することができたかどうか、争いのあるところではあるものの、まったく予見することができないとまでは言えないだろう。過去にはこうした従業員の不適切動画によって企業が倒産に追い込まれた事案もあり、その際は1385万円の請求額を求めた訴訟が提起されている(その後、合計約200万円で和解が成立している)。

それでも、約90億円もの損害が発生することを通常予見できたかといわれれば、それについては疑問があるので、この損失分をすべて賠償請求することはなかなか認められにくいだろう。今回も一部の損害について請求を求めつつ(それでも高額ではあるだろうが)、一定の金額(例えば数百万円など)で和解することになるのではないだろうか。

雇用問題が不適切動画事件の原因なのか

くらコーポレーションが、従業員に対して法的措置を取ることを発表した後、インターネットを中心にその賛否をめぐって議論が分かれている。

法的措置に対する批判的な意見としては、「安い労働力をバイトで確保しておいて、不祥事が起きたら重い責任を負わせるのは不当だ」「外食産業やコンビニエンスストアは、アルバイトを含む非正規雇用に深く依存している。一連の不適切動画事件が相次いでいるは、その負の側面が現れているにすぎない」といったような論調のものが見られるようだ。しかし、本当にその議論は正しいだろうか。

確かに、これが不注意によって発生した事案なのであれば、そうした議論も可能かもしれない。業務のクオリティは報酬に見合ったものであるべきで、この点にギャップが生じていることを放置し続ければ、その歪みがいずれ何らかのかたちで現れる。極端なケースで言えば、2016年1月に起きた軽井沢スキーバス事故などは、格安ツアーを成り立たせるため、従業員に長時間労働を強いていたことが原因とされた。

しかし、改めて確認するが、一連の不適切動画事件における行為は、何か業務上の注意義務を怠ったような性質のものではない。彼らが、事の重大さをどこまで認識していたかは定かではないものの、本来であれば業務上まったく行う必要のない、単なる悪ふざけを行ったことの結果なのだ。報酬の多寡や非正規雇用の増大はこのような行為を行うことを正当化する理由にはなりえない。

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