村上ファンドはなぜ「廣済堂」に目をつけたのか 葬祭子会社「東京博善」の知られざる企業価値

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東京博善のキャッシュフローも潤沢で、コンスタントに年間40億円のキャッシュフロー(EBITDA)を生んでいる。保有する現預金が有利子負債を上回る、いわゆる実質無借金状態なので、ざっと税負担率を3割、投資利回り6%で換算すると466億円。廣済堂は東京博善の発行済み株式総数の60.9%を保有しており、廣済堂が保有する東京博善株式の価値はざっと280億円。ところが、ベインは今回、その廣済堂をその半値近い総額151億円(1株あたり610円)で買収しようとしている。買収総額が280億円なら1株あたり1130円、これに3~4割のプレミアムが乗れば、1400円~1500円になるのだから、それくらいのTOB価格を既存株主が求めたとしても、法外な要求とは言えないだろう。

現行の会社法では、廣済堂は東京博善株をあと5.8%分取得できれば、残りの株主から保有株を強制的に取得し、東京博善を100%支配できる。ベインが廣済堂を買収した後、東京博善の完全支配に乗り出すのではないかと考えれば、安すぎるTOB価格に既存株主が納得しないのも当然なのだ。

東京23区内での「火葬シェア」は7割

厚生労働省によると、火葬場は2月9日時点で全国に1514カ所ある。運営主体は大半が自治体で、民間企業が運営する火葬場は13カ所しかない。

東京博善以外では、東京都板橋区の戸田斎場、東京都府中市の多磨葬祭場 日華斎場、埼玉県草加市の谷塚斎場、神奈川県横浜市の西寺尾火葬場、愛媛県松山市の寺田斎場、沖縄県沖縄市の沖縄葬祭場の7カ所だ。

島しょ地域を除く東京都内には、現在合計18カ所の火葬場があるが、このうち民間企業が運営する火葬場は8カ所。23区内にしぼると9カ所中、民間企業運営が7カ所を占め、そのうち6カ所が東京博善の火葬場。つまり、東京23区内ではほぼ独占状態なのだ。実際、東京博善の有価証券報告書には、東京23区内の死亡人口の7割強の火葬を手がけていることが記載されている。

火葬場を新たに作るには都市計画決定を受ける必要があり、そのためには地元住民の理解は不可欠だ。火葬場は「迷惑施設」として嫌われ、新設は事実上困難とされるだけに、今後23区内で新規参入はないと考えていいだろう。

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