中国「空気と水」の汚染が止まらない 富坂聰氏が描き出す衝撃の現地レポート(前編)

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無頓着だった中国人もマスク姿

興味深いことは、これまで日本で大きく報じられるのとは裏腹に大気の汚染に比較的無頓着だった中国人もさすがに深刻に受け止め始めたのか、街でもマスク姿で歩く人が増えているのだ。

話題の人物でもある陳光標率いる江蘇黄埔再生資源利用有限公司による、大気汚染が深刻な北京と上海で新鮮な空気を缶詰にして売り出すという珍事業が真面目に展開された――その後これはネットで叩かれたことにより消滅したようだが――ほどの深刻な状況が続いているのである。

この問題の解決が簡単ではないのは、第一に、企業が環境基準違反を指摘されても罰金で済まされるならば、それによって儲けられる額に比べ罰金のほうがはるかに安いことから、企業が環境保護のほうにインセンティブを働かせることがないといった実情が挙げられるだろう。

また、その次の問題として、もし厳しい罰則を適用すれば経営が成り立たなくなる企業が続出し、一気に環境よりも政府が恐れる失業が社会にのしかかってきてしまうということがあるのだ。

かつての日本の状況を考えても、「お腹がすいているのに環境どころではない」といった考え方が広がっていることは、とくに大都市以外では想像に難くないのだから、環境対策で工場を潰すことに理解が得られないすさんだ荒野が広がっていることもわかるというものだ。

(Voice1月号より 後編は12月28日の公開です。)

富坂 聰 ジャーナリスト・拓殖大学教授
とみさか・さとし / Satoshi Tomisaka

中国ウォッチャーとしては現代屈指の一人。1964年愛知県生まれ。北京大学中文科中退。週刊ポスト、週刊文春などで名を馳せたのち、独立。中国の内側に深く食い込んだジャーナリストとして数々のスクープを報道。2014年より、拓殖大学教授。

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