中国「空気と水」の汚染が止まらない 富坂聰氏が描き出す衝撃の現地レポート(前編)

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「いまの数値は、266(2013年11月13日)です。悪いでしょう。まだ統計には表れていないようですが、日本人の中国離れが大気汚染によって一気に加速していると思います。とくに家族だけを日本に帰す動きが目立っている、と引っ越し業者が話していました。2012年の反日デモの影響で下火だった中国人の日本旅行は、国慶節のころには元に戻ったようですが、日本人の中国観光はまったく戻ってこないと業者は嘆いています。対前年比でマイナス60%、ひどいケースではマイナス90%にも落ち込んだといいますからね。これもPM2.5の影響でしょう。どうやら日本人が中国を敬遠する最後の引き金を引いてしまったようです」

影響は日本人にとどまらない。欧米のビジネスマンも中国への投資を手控える動きを見せ始めているという。2013年10月にWHO(世界保健機関)が、PM2.5と発がん性の関係について初めて正式に認めたことが大きかったとされる。

加えて中国疾病予防コントロールセンターも、2013年に中国で発生したPM2.5による大気汚染によって健康に影響を受けた人口が全国で約6億人に達し、国土にして全17省(直轄市と自治区を含む)の4分の1にも及んだとの数字を公表し人びとに衝撃を与えたのである。

中国政府もいよいよ本腰

経済への損失が顕在化するなか、中国政府もいよいよ本格的な対策を発表した。

各地が発表した「空気清浄行動計画」のなかで北京の計画は、2017年までに、PM2.5の濃度を現在(2012年)の基準から25%削減し、1日の平均値を1立方メートル中60マイクログラムまで抑えるというものだ。

ちなみに日本の環境基本法では1立方メートル中35マイクログラムというのが健康を維持できる基準とされ、北京の現状は11月までの時点の1日平均で90マイクログラムとなっている。

これを60マイクログラムまで下げるために、問題の16.7%を占めるとされる石炭の使用を抑制するというのだが、具体的には北京市の第六環状線の内側にあるセメント、石油化学、酒造、機械などの石炭を多く使用する企業――中国全体では鉄鋼、有色金属、化学工業、建材がエネルギーを最も消費する産業として全体の4割以上を占めているとされる――をターゲットに、2016年までに計200万tの石炭使用を削減することを義務付けるというものだ。

しかし、あらためていうまでもなくPM2.5の原因となっているのは工業使用の石炭だけではない。空気中のホコリ(20%)のほか、暖房用に使用される石炭が約18%、そして最も大きな原因とされるのが自動車の排気ガス(20%)なのだ。その自動車はモータリゼーションの深化にともなって肥大化し続けている。現状、新しく市場に投入される自動車の数は毎年約2000万台にも上るとされ、この新車販売台数の伸びは石油の消費量を年2%から3%の勢いで押し上げていくというのだから悩みは深いといわざるをえない。

汚染物質を空気中に出すことを抑制するためには脱硫装置などの対策が有効であることはいうまでもないが、これは大きな規模の工場のような施設であれば大きな効果が望めるのだが、対象が小さくなれば効果も期待できない。コストが合わないという問題に加えて対策が限られるからだ。

2013年には夏から秋にかけて、悪い日中関係にもかかわらず、中国は川崎市と東京都に環境問題のミッションを派遣してきているのだが、個別の家庭で暖房や炊事のために焚かれる石炭の対策は日本にもないのが実情なのだ。

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