映画『ゼロ・グラビティ』がすごい理由 プロデューサーのデヴィッド・ヘイマンに聞く

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――この映画にはジョージやサンドラなど、有名な俳優が出演していますが、企画としては非常にチャレンジングなもので、実際にゴーサインを出すのは難しかったのではないのでしょうか?

この映画はハリウッドでヒットする法則、すべてのルールを破っている。まずは2人しか登場人物がいないこと。彼らが40代から50代であるということ。それからほとんどの舞台が宇宙空間であるということ。1時間くらいは画面にひとりしか登場しない。

それにアクション映画なのに、女性が主人公で、ほとんど彼女の顔はバイザーの奥になっていて、顔が見えづらい。さらにマイクを通した声は圧迫されたものになっている。モンスターだって出てこない。これは絶対にヒットするぞといった要素が、この作品にはことごとく欠けている(笑)。やはり投資する側としては、これはどうかなと思うたぐいの作品だと思う。

――そんな、ないない尽くしの企画でありながらも、ヘイマンさんの心が動かされた理由は何だったのでしょうか?

やはり脚本がとてもすばらしかったということ。しかもアルフォンソという非常に才能ある監督が参加している。さらに言えば、わたしもこの業界では少しは成功を収めている。そういった要素が重なって、スタジオとしてもサポートしようという雰囲気になったんじゃないかと思う。

逆境をテーマに映画を作った

――そもそもこの映画はどういった経緯で企画されたのでしょうか?

きっかけは、アルフォンソが「逆境」をテーマに映画を作りたいと言ったこと。あるひとりの人間が、とても厳しい逆境に立たされて、そこから自分が生まれ変われるというアイデアから始まったんだ。ある意味で『ゼロ・グラビティ』は個人的な物語だとも言えるね。

――そこから非常にスケールの大きな映画に仕上がりました。

確かに大きな映画だが、それでも親近感がある話だと思う。

――「逆境」というキーワードは若者に響きそうですね。

若い人ももちろんだが、それだけでなく老いも若きもどの世代にも響くんじゃないかな。誰の人生にも逆境はあるはずだからね。ひとつ言えるのは、逆境が人を成長させるということだ。本作の主人公である女性に、実際に宇宙に飛ばされてしまうかもしれない逆境が訪れる。しかし彼女はあきらめるのではなく、「生きる」ことを選択するんだ。そのことによって、さまざまな可能性が生まれてくる。それともうひとつ。アルフォンソの作品で感じてもらえることだと思うが、登場人物は過去に生きるのではなく、未来に生きるのでもない。まさに今という瞬間を生きているんだ。

――『ハリー・ポッター』などさまざまなプロジェクトを成功させてきたヘイマンさんには、逆境はあるんですか?

エブリディ! それはいつもだよ(笑)。勘違いしてほしくないのは、成功したからといって、逆境がなくなるというわけではないということ。もちろんほかの人の逆境とは違うのかもしれないが、まあとにかく毎日が大変なことばかりなんだ。子どもも大変だしね。とは言っても、僕が今まで手掛けたプロダクションの中で、最も成功した最高傑作はうちの子どもなんだけどね(笑)。

(c)2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
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