社会で大切なことは「無条件の愛」の学習だ 共同体メカニズムをどう政策に導入すべきか

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伝統的経済学は、科学的に研究を進めるために感情などの影響を受けずに合理的に効用を最大化している経済人(ホモ・エコノミカス)を大前提とする。これに対し、行動経済学は経済人の大前提を置かない経済学である。

行動経済学は経済人ではなく人間を対象とするので、心理学などほかの分野の知見を経済学に自由に導入することができる。共同体メカニズムの社会的な望ましさの評価については、規範倫理学の知見を経済学に導入することが有益であろう。

規範倫理学に3つの大潮流

規範倫理学は人々のさまざまな倫理観を理論化する学問であり、その3大アプローチとして、帰結主義、義務論、徳倫理がある。先に書いたように徳倫理については前回の記事で紹介したので、今回は上記に簡単に説明した。

帰結主義では、消費や余暇に基づく満足度(効用)などの帰結のみが重視される。行為の動機の純粋性や人格的な成長などは無視される。帰結主義の代表はジェレミー・ベンサム(1748~1833年)の提唱した「最大多数の最大幸福」を善しとする功利主義である。

マイケル・サンデルは『これからの「正義」の話をしよう』でさまざまな倫理観をわかりやすく説明しているが、1つは功利主義である。また、もし政策などで資源配分を変更して、1人の個人の効用が厳密に増加し、社会のほかの誰の効用も下がっていないならば、社会にとって善い変化と評価するパレート基準という経済効率の倫理観も帰結主義の一種である。

義務論の代表であるイマヌエル・カントの倫理理論では、行為の動機の純粋性が重視される(サンデルの上掲書の第5章)。誰であっても人を手段として利用しようとするのではなく、尊重する純粋な動機ですべてを行う義務が人間にはある、という考えである。

例えば芸能人が被災地の支援をしたときに、動機が純粋ではない偽善行為であるという非難を受けることがある。非難する人たちは義務論の倫理観を使っている。動機は心の中のことなので、個人が自分の行為を律する倫理観として義務論を使うことができるが、社会がどのような法律・制度を作ってどう行動すべきかという判断には使えない。

そこでカントは社会のためには社会契約論を用い、各個人が動機の純粋性の義務のために行為できるための自由を重視する。カントは欲望のままに生きることを自由ではなく欲望の奴隷になることととらえるので、ここでの自由は純粋な良心のままに生きる自由である。例えば、良心的兵役拒否者が兵役の代わりに民間奉仕をする自由を与える法律は、義務論の観点から善い法律と評価できる。

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